精進料理

ヘルシー探偵団

精進料理

ヘルシーな料理として関心が高まりつつある“精進料理”。なぜ今、“精進料理”なのか?

 

精進料理

忙しいことを理由に出来あいの惣菜やお弁当、ファーストフードや24時間営業の外食チェーンについつい頼ってしまう現代人の食事。野菜不足や塩分の摂りすぎなど、栄養バランスの乱れがちなその食生活は改善への取り組みが叫ばれて久しい。そういった状況の中、日本に古くから伝わる“精進料理”への関心が高まりつつある。

実際はどうか?曹洞宗大本山永平寺で精進料理を学び、その後、永平寺東京別院で典座(禅宗の総料理長)を務め上げ、現在は群馬県沼田市の曹洞宗永福寺住職を務める一方、精進料理研究家として講演・執筆・料理教室などを通し、伝統の精進料理の心と技と味を一般の家庭にも伝える高梨尚之氏はこう語る。「講演や料理教室などの活動をする中で、確かに以前よりも、皆様が精進料理に関心をお寄せになられていると感じます。“食育”をはじめ国を挙げての健全な食生活への取り組み、世界的な禅のブーム、和食の世界遺産登録など、要因はいろいろとあるのでしょうが、なによりも、ご自分の食生活に疑問を持つ方が増えたということではないでしょうか。そこで野菜を中心にした健康的な食事であり、長い歴史の中で理論的に熟成されてきた精進料理に自然と注目が集まっているのだと思います」

精進料理とはどのような料理なのか?「特に定義や明文化されたものではないので、宗派や各お寺によっても伝わる手法や定義が違い、大変興味深いものです。私が学んだのは、永平寺の開祖道元禅師が説いた“正しき食の心”を元にした精進料理です。野菜や海藻類、穀物などの大地と自然の恵みをいただきます。食材の命を大切にして作られる料理は、厳しい修行を積む禅僧の心と健康と命を今も支え続けています」

長き歴史で継承されるとともに発展してきた精進料理の数々は、栄養面も実に考えられている。「料理の基本に“五味五法五色”があります。これは、煮る、焼く、揚げる、蒸す、生の5つの調理法、甘味、酸味、辛味、苦味、塩味の5つの味つけ、白、黄、赤、青、黒の彩りを指します。これらをうまく組み合わせると栄養的に優れ、味にも飽きず、見た目も美しく仕上がるのです」

こう書くと“やはり一般の家庭で作るのは敷居が高いのでは?”と思われるが、そう考えないでほしいと高梨氏は言う。「レシピを見ていただければわかるのですが、この料理には複雑な技巧も、高価な調理器具も、特別な食材も必要ありません。地元の食材をどう美味しくするのかが基本です。近所のお店で手に入る野菜を使い、誰もが家庭で作れる料理なのです。かぼちゃの煮物や切干大根なども、立派な精進料理。ひと昔前ならご家庭で普通に作られていたものがいっぱいあります。また、基本さえおさえていれば洋風のパスタも現代の精進料理といえます。決して難しいものではないのです。“喜心”といって作る方も食べる方も嬉しくなるのが大事」

だからこそ家庭の味にどんどん取り入れてほしいと語る。「無理する必要はありません。できる範囲でいいのです。たとえば、食材を無駄なく使ってゴミを出さないようにするのも、料理を残さず感謝の心をもっていただくのも永平寺の精進料理の教えにつながります。味やレシピもさることながら、食材の命を大切にする、毎日の食事に感謝を持っていただくといった精神までもが、もっともっと広まっていってくれたら嬉しいです」

最近は宗派を問わず、一般に開放された料理教室やカフェも増えてきている。“赤坂 寺庵(てらん)”は、東京で350年続く浄土真宗のお寺の中で精進料理教室を開催している。教室を始めたきっかけをお寺の坊守・衆徒(僧侶)で管理栄養士・食育アドバイザーでもある寺庵代表の浅尾昌美氏はこう語る。「檀家さんから精進料理の作り方を尋ねられることが増えて、健康に対する意識の高まりを感じまして、2008年の秋に“日常で楽しめる精進料理”をコンセプトに教室を始めました。30代、40代の働く女性を中心に多くの生徒さんがいらっしゃいます。やはり野菜中心の健康的な食生活を意識して精進料理に興味を持った方が多いようです」

受講者の反応はどうだろう?「どうやら精進料理は“質素”“地味で見栄えがしない”“薄味”といった一般的なイメージがあるようなんですね。でも、実際は違います。いろいろな野菜を使うので彩り豊かで、昆布や干し椎茸などの出汁で食材のうまみを引き出しますから味も薄くはない。なので、皆さん、一様に驚かれます(笑)。また、野菜だけなのに“お腹が十分満たされる”と言う方も多いですね」

もっと精進料理が家庭に広まってほしいとの願いから、いろいろなコースが用意されている。「まずは教室の雰囲気を確かめてみたいという人向けの精進料理体験から、基礎を学ぶ“ちょこっと入門”、男性料理教室など、いろいろとあります。いずれも5名までの少人数制で丁寧にご指導します。また、寺庵が精進料理を通して提案したいのが、「育自力」(いくじりょく)です。これは自分自身を育てること。この教室が、健康で豊かな食生活や生きがいをある人生を送れることにつながってくれたらと思っております」
生徒は、アレルギー体質のため健康な食事を求めて料理教室に通いだしという人や仕事帰りのOLなどさまざま。プライベートレッスンもあり、時間も生徒に合わせてもらえる点も人気をよんでいる。

そのほか、一般の人にも精進料理を提供するお寺が増えている。2014年4月に“NEO SHOJIN STYLE”をコンセプトにしたレストラン「ガーデンレストラン松濤園 櫻」が日蓮宗大本山池上本門寺内にオープン。「精進料理を代表する食材の豆腐・湯葉・生麩・野菜を柱に、食事の楽しさや華やかさ、満足度を現代風に表現してご提供しています」と店長の小林氏は語る。
登山でも人気スポットの東京都八王子市・高尾山。その中腹にある真言宗智山派「高尾山薬王院有喜寺」では、古くから修験道の霊山として山伏が修行を行っており、大本坊では、伝統的な精進料理を味わうことができる。

また、精進料理をメインメニューにしたカフェ「こまきしょくどう 鎌倉不識庵」が出現。臨済宗の僧侶であった父から精進料理を学んだ女将の藤井小牧氏は「毎日食べるもので日本の食文化は守られる」と語る。お付き合いのある新規就農や有機の農家から仕入れた野菜を使い、日常的に楽しめる“カフェ風精進料理”を提供している。

精進料理は決して敷居の高いものではなく、野菜をおいしく味わえて体に優しく日本人が昔から馴染んできたもの。出汁をしっかり使うと醤油などの調味料は少量でも薄味に感じない味付けになる。喧騒から離れて静かな所で精進料理を味わうのもまた格別。ちょっと足りないところも侘び寂びで心を補ってくれ、食材の美味しさも倍増する。この機会に精進料理を体験または味わってみてはいかがだろう。

群馬県永福寺住職 高梨尚之氏

http://www.tenzo.net/

真宗高田派 方廣山常國寺内 赤阪 寺庵

http://akasaka-teran.net/

松濤園 櫻(池上本門寺境内)

http://www.dynac-japan.com/syoutoen-sakura/index.html

こまきしょくどう 鎌倉不識庵

http://konnichiha.net/komakishokudo/

高尾山薬王院

http://www.takaosan.or.jp/shojin.html

毎月1回更新Powered by 東京カレンダー

2014.06.16 UP