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厚生労働省の報告によると、平成28年には「糖尿病の可能性が否定できない人(糖尿病予備軍)」の減少が認められていますが、「糖尿病が強く疑われる人」は、約1,000万人と、前回の調査を上回る人数であることが示されました。国民の約6人に1人は糖尿病またはその予備軍ということになります。
食事に含まれる炭水化物はブドウ糖に分解され、体内に取り込まれ、膵臓(すいぞう)で作られるインスリンという物質の働きにより、筋肉などでエネルギーとして利用されます。また、余分なブドウ糖は、グリコーゲンや脂肪として肝臓や脂肪組織に蓄えられ、食事を食べない時のエネルギーとして利用されます。
必要な量のインスリンが作られない、もしくは、インスリンの働きが悪い場合には、ブドウ糖が適切に利用できず、血糖値が慢性的に高くなります。このような状態を糖尿病といいます。慢性的に高血糖が続くと、合併症の発症リスクが高くなるため、糖尿病と診断された人は、定期的に医療機関を受診し合併症を予防しましょう。
糖尿病のない人は、インスリンの働きによって血糖値は一定の範囲内で推移します。一方、糖尿病のある人では必要な量のインスリンを作ることができない、もしくは、インスリンの働きが悪いために血糖値が上昇します。
糖尿病はその原因によって、1型糖尿病、2型糖尿病、その他の原因による糖尿病に分類されます。また、健康な赤ちゃんを産むために、血糖値を正常範囲に保つことが重要なため、糖尿病の診断よりも厳格な血糖値の基準を満たす場合に妊娠糖尿病(妊娠中にはじめて発見または発症した糖尿病にいたっていない糖代謝異常)と診断します。
1
1型糖尿病
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若年で発症する場合が多い。膵臓(すいぞう)のβ細胞がこわされ、自分でインスリンが作れません。 |
2
2型糖尿病
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中高年に多い。肥満や生活習慣のためインスリンの働きが悪く、十分にインスリンが作れません。 |
3
その他の原因による糖尿病
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単一遺伝子異常によるものと、ほかの病気や薬剤に伴って起こるものがあります。 |
4
妊娠糖尿病
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妊娠中にはじめて発見または発症した糖尿病にいたっていない糖代謝異常です。 |
日本では、糖尿病のある人の90%以上が2型糖尿病といわれています。 2型糖尿病は、糖尿病になりやすい体質(遺伝素因)に、不健康な生活習慣や加齢などが重なると発症しやすくなります。一方、1型糖尿病は、全体の5%未満といわれ、遺伝素因やウイルス感染などが原因となり発症します。肝臓や膵臓(すいぞう)の病気によって糖尿病になったり、他の病気の治療で用いるステロイドなどの治療により糖尿病を発症することもあります。
糖尿病が重症化すると症状があらわれますが、初期には、ほとんどが無症状です。糖尿病かどうか、健康診断などで定期的に検査を受けることが大切です。合併症の発症を予防するために、定期的に医療機関に通院しましょう。
健康的な食事や運動を含め適切な治療を受けず高血糖が長く続くと、血管が傷害され、さまざまな合併症を発症することが知られています。
細い血管が傷害されて生じる網膜症(もうまくしょう)は、進行すると視力低下から失明にいたることがあります。また、腎症(じんしょう)は、腎不全から透析にいたることもあります。神経障害は足切断やED(勃起不全)、突然死の原因になることも知られています。これらは三大合併症といわれています。
また、太い血管が傷害されて生じる脳血管障害や心筋梗塞、末梢動脈疾患など、生命に危機が及ぶ合併症もあります。
これらの合併症は、糖尿病の治療をきちんとしていれば、発症や重症化を予防することができます。
糖尿病治療の目標は、血糖、血圧、脂質代謝を良好なコントロール状態に保ち、適正体重を維持しつつ、禁煙を遵守することで、糖尿病の合併症を予防し、健康な人と変わらない質の高い人生を送ることです。
糖尿病合併症を予防するため、血糖コントロール目標値が設定されています。国内外で行われたいくつかの臨床試験の結果から、合併症を予防する目標として、HbA1c7.0%未満が推奨されています。ただし、65歳以上の高齢者では、認知機能や日常生活動作に応じて、目標値が高く設定されます。特に、低血糖を起こしうる糖尿病治療薬を使用する場合には、目標値に下限値が設けられています。また、妊娠中の女性の場合、健康な赤ちゃんを産むために目標が異なります。具体的な目標値については主治医の先生に確認しましょう。
コントロール目標値※4 | |||
目標 |
血糖正常化を 目指す際の目標※1 |
合併症予防 のための目標※2 |
治療強化が 困難な際の目標※3 |
HbA1c (%) |
6.0未満
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7.0未満
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8.0未満
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糖尿病治療では、血糖値以外にも体重、血圧、血清脂質の目標が設定されています。
体重 | 目標体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22a | ||
血圧 | 降圧目標:130/80mmHg未満※1 | ||
血清脂質 | LDLコレステロール | 120mg/dL未満※2 | |
HDLコレステロール | 40mg/dL以上 | ||
中性脂肪 | 150mg/dL未満(早朝空腹時) | ||
Non-HDLコレステロール | 150mg/dL未満※3 |
体重の目標値は、65歳未満は身長×身長×22ですが、高齢者では身長×身長×22~25となります。血圧の目標値は、75歳以上の患者さんでも治療に問題がなければ130/80mmHg未満と同様の目標値とする場合もあります。血清脂質の目標は、心臓病(冠動脈疾患)患者さんのLDLコレステロールの目標値は100mg/dL未満です。また、再発のリスクが高いと考えられる場合は、70mg/dL未満となる場合もあります。Non-HDLコレステロールの目標値は、130mg/dL未満です。また、再発のリスクが高いと考えられる場合は、100mg/dL未満となる場合もあります。
糖尿病治療の基本は食事療法、運動療法、薬物療法の3つです。健康的な食事と運動により体重を適正に保ち、インスリンの効きをよくすることで、目標を達成できることも少なくありません。目標を達成できない場合、食事や運動など生活習慣を今一度振り返り、薬物療法を開始します。
食事療法は糖尿病のある人にとって、治療の基本となります。適切な食事をし、体重を適正に保つことでインスリンの効きがよくなり、糖尿病治療薬を減らすことができる場合もあります。食事療法は、単に摂取カロリーを減らせばよいわけではなく、患者さんの肥満度や活動量などを考慮して、適切な量を栄養バランスに注意しながら過不足なく摂取しましょう。高齢者では、むしろ食事量が不足している場合も少なくありません。適正な食事は患者さんごとに異なります。主治医の先生や管理栄養士さんと必ず相談しましょう。
摂取するエネルギー量は、年齢、肥満度、日常の活動量など、患者さんによって異なります。
摂取するエネルギー量が決まったら、次は栄養素のバランスが重要です。
総エネルギー量の50~60%を炭水化物、たんぱく質は20%までとして、残りを脂質で摂取することが目安として推奨されています。
バランスよく栄養素を配分するために『糖尿病食事療法のための食品交換表(第7版)』を用いると便利です。食品交換表では、食品に含まれている栄養素によって6つの表と調味料に分類しています。また、80kcalを1単位として、それぞれの食品1単位分の重さ(g)を示しているので、どれぐらい食べることができるのかがわかります。
1単位(80kcal)あたりの 栄養素の平均含有量 |
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分類 | 種類 |
炭水化物 (g) 1gあたり4kcal |
たんぱく質 (g) 1gあたり4kcal |
脂質 (g) 1gあたり9kcal |
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炭水化物を
多く含む食品(Ⅰ群) |
・穀物 ・いも ・炭水化物の多い野菜と種実 ・豆(大豆を除く) |
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18
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2
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0
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・くだもの | |||||
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19
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1
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0
|
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たんぱく質を
多く含む食品(Ⅱ群) |
・魚介 ・大豆とその製品 ・卵、チーズ ・肉 | ||||
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1
|
8
|
5
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・牛乳と乳製品(チーズを除く) | |||||
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7
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4
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4
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脂質を多く
含む食品(Ⅲ群) |
・油脂 ・脂質の多い種実 ・多脂性食品 | ||||
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0
|
0
|
9
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ビタミン・ミネラルを
多く含む食品(Ⅳ群) |
・野菜(炭水化物の多い一部の野菜を除く) ・海藻・きのこ ・こんにゃく |
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14
|
4
|
1
|
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調味料
|
・みそ、みりん、砂糖など | ||||
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12
|
3
|
2
|
自己流の食事療法は合併症を悪化させることがあります。
必ず主治医の先生や管理栄養士さんに相談してから取り組みましょう。
食べる量や種類だけでなく、食べる順番も血糖値に影響を及ぼすことが知られています。
ご飯やパンなどの炭水化物より先にサラダなどの食物繊維を含む食品を食べると、消化管からの糖の吸収を抑えて、食後の血糖値の上昇や体重の増加を抑えることができます。また、炭水化物よりも先にたんぱく質や脂質を含む食品を食べると、インスリンの分泌をうながすインクレチンというホルモンが分泌されて、食後の血糖値の上昇をゆるやかにすることができます。インクレチンは、食欲を抑える働きもあるので、減量にもつながると期待されています。
食後の血糖値の上昇や体重の増加を抑えることが期待できるため、食べる順番も意識しましょう。
運動をすると筋肉でブドウ糖や脂肪の利用が増加するだけなく、インスリンの効きがよくなります。食事療法に加えて運動療法は糖尿病の治療において極めて重要です。
運動持続時間は、糖質と脂肪の効率のよい燃焼のために20分以上が望ましいといわれています。
糖尿病の運動療法として、散歩・体操・自転車・ジョギング・水泳などゆっくりと十分に息を吸い込みながら全身の筋肉を使う運動(有酸素運動)やスクワットや腕立て伏せなどの筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行うレジスタンス運動が適しています。有酸素運動の時間は1回20~60分、回数はできれば毎日、少なくとも週3~5回、2日以上間をあけずに行い、週に150分以上行うことがお勧めです。レジスタンス運動は、週に2~3回、1日以上間をあけて行うことがお勧めです。医師に禁止されていなければ両方の運動を行いましょう。水中歩行は、有酸素運動とレジスタンス運動が一緒に行える運動です。膝にかかる負担も少ないので、肥満患者さんにもお勧めです。
運動を行うと筋肉のエネルギー源は使われてしまうため、たんぱく質の分解が進んだ状態になります。そのため、運動を行う前後でたんぱく質を摂ると運動とその後の回復によい影響を与えます。運動を行う際は、食事の栄養にも気をつけましょう。
必ず主治医の先生や理学療法士さん、健康運動指導士さんに相談してから取り組みましょう。合併症が進んだ状態で運動すると、むしろ合併症が悪化することもあります。
食事療法と運動療法のみで血糖コントロールの目標が達成できない場合、ふたたび生活習慣を見直したうえで、糖尿病治療薬による治療を開始します。
糖尿病治療薬には、「インスリンを分泌させる薬(インスリン分泌促進系)」と「インスリンの効きをよくする薬」があります。
患者さんごとに適した薬は異なるため、主治医の先生とよく相談しましょう。
機序 | 種類 | 作用 | |
インスリン 分泌非促進系 |
α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI) | 腸でブドウ糖の吸収を遅らせる | |
SGLT2阻害薬 | 尿中への糖の排出を促進する | ||
チアゾリジン薬 | 脂肪細胞に作用してインスリンの感受性を改善する | ||
ビグアナイド薬 | 肝臓で糖が作られるのを抑える | ||
インスリン
分泌促進系 |
血糖 依存性 |
イメグリミン | 血糖値が高い時のみインスリン分泌を促進する、また肝臓に作用してインスリンの感受性を改善する |
DPP-4阻害薬 | 血糖値が高いときのみインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑える | ||
GLP-1受容体作動薬 | 血糖値が高いときのみインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑える | ||
血糖 非依存性 |
スルホニル尿素(SU)薬 | 血糖値に関係なく、インスリン分泌を促進する | |
速効型インスリン分泌促進薬 | 血糖値に関係なく、インスリン分泌を促進する | ||
インスリン製剤 |
①基礎インスリン製剤 (持効型溶解インスリン製剤、中間型インスリン製剤) ②追加インスリン製剤 (超速効型インスリン製剤、速効型インスリン製剤) ③超速効型あるいは速効型と中間型を混合した混合型インスリン製剤 ④超速効型と持効型溶解の配合溶解インスリン製剤 |
超速効型や速効型インスリン製剤は食後の高血糖を改善する 持効型溶解や中間型インスリン製剤は空腹時の高血糖を改善する |
1998年 | 京都大学医学部医学科卒業 |
2003年 | テキサス大学サウスウェスタン博士課程修了(PhD) |
2004年 | 京都大学大学院医学系研究科 分子生物学 助手 |
2009年 | 関西電力病院 糖尿病・栄養内科 副部長 |
2011年 | 神戸大学医学研究科 客員准教授 |
2013年 | 関西電力病院 糖尿病・内分泌・代謝内科 部長、疾患栄養治療センター長 |
2015年 | 関西電力医学研究所 副所長 |
2016年 | 京都大学医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 特定准教授 |
2018年 | 岐阜大学医学系研究科 内分泌代謝病態学 教授 |
2019年 | 神戸大学医学研究科 客員教授 |
2020年 | 東海国立大学機構 医療健康データ統合研究教育拠点 教授 |
2021年 | 岐阜大学大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌代謝学/膠原病・免疫内科学 教授 |
2021年 | 東海国立大学機構 医療健康データ統合研究教育拠点 副拠点長 |
2022年 | 岐阜大学医学部附属病院 副病院長 |
2022年 | 岐阜大学高等研究院 先制食未来研究センター 副センター長 |
2022年 | 岐阜大学 学術研究・産学官連携推進本部 副本部長 |