
1人分 98kcal 食塩相当量 1.4g
伝統発酵食品・うるかの
深い旨みを味わう。
小芋を月見団子に見立てた
季節を愛でる一皿。
日本の食文化は四季の伝統行事とも密接で、季節のうつろいを愛でながら暮らしてきた日本独特の美意識に触れられます。旬の食材を取り入れながら、古きよき日本の食の豊かさに触れられる料理をご紹介できたらと思います。
9月といえば、十五夜のお月見です。今ではすすきを飾って団子を供えるのが一般的ですが、団子が登場したのは江戸時代の後期から。稲作が盛んになる前の日本では里芋が主食で、月見のはじまりは里芋の収穫祭だったといわれています。そんな話にちなんで、今回は月見仕立てにした里芋のうるか煮をつくります。
うるかはご存知、鮎の塩辛のこと。酒肴のイメージが強い食材ですが、塩蔵品でありながら発酵食品であるうるかは、ごく少量で深みのある味わいを出すことができ、塩けも丸く旨みがある。後世に伝えたい食材でもあります。
うるかで炊いた里芋を月見団子に、菊菜、水菜のお浸しを形よく整えて白ごまをまぶしたものをすすきに見立てて、しめじを添えて秋の景色が深まる盛り付けにします。家庭でだしをひいてお浸しをつくるのは手間に感じるかもですが、浸し地は一度つくれば、冷蔵で3日程度は保存ができるので、多めにつくるといいでしょう。
今回、菊菜と水菜のお浸しをつくるのも、里芋を炊くのも、一種類の浸し地がベースです。ポイントは、きのこ類(今回であればしめじ)を使うときは、最初に浸し地できのこを炊くこと。きのこから出るだしで、浸し地の味がさらに深まります。
里芋は下ゆでが必要ですが、電子レンジを使って構いません。8割火を通したものを、だしとみりん、醤油を合わせた浸し地で炊いていく。里芋特有の粘りけが出るまで炊くのが目安ですが、出初めの小芋はまだデンプン質が少なく、粘りが出にくい場合もあるので、その際は、ごく少量の水溶き片栗粉を加えましょう。火が通ったら、一度皿に取って、同じフライパンでうるかを炒って絡めていきます。うるかは生臭さが香ばしい香りに変わってきたら火が通った合図。汁けを切った小芋を絡めて出来上がりです。
うるかを使用することで、奥行きを感じる満足感のある味になります。芋煮とお浸し、それぞれを鉢に盛ってもいいのですが、月見団子仕立てにする、そのたったひと手間で、いつものおかずが風情のあるご馳走になる。レシピだけでは語れない、日本の食の豊かさです。
里芋は皮をむき、根元の硬い部分を取り除いて耐熱皿に並べ、水で湿らせたキッチンペーパーを被せて電子レンジで約3分(600W)加熱する。
浸し地600mlを鍋に入れて沸かし、しめじを入れてひと煮立ちさせ、鍋ごと氷水で冷やす。
しめじなどのきのこ類は、一度だしの中で煮立たせるといいだしが出る。
鍋に湯を沸かし、水菜、菊菜をさっとゆでて氷水にさらして色止めをし、水けを切って(2)に浸しておく。
フライパンに浸し地300mlとだし(または水)100ml、(1)の里芋を入れて、落とし蓋(クッキングペーパーでも可)をし、中火で約15分炊く。里芋に火が通って表面が軽く溶け、だしに粘りけが出てきたら、一度取り出す。
(4)のフライパンを拭き、うるかと酒を入れて軽く炒り、生臭さを飛ばしながら香味を引き出す。香味が出たところで、汁けをきった里芋を戻し入れ、うるかを絡める。
うるかに酒を加えるとうるかを伸ばしやすい。クセのある香味から香ばしい香りに変わったら火が通った合図。
器に(5)を月見団子のように盛り付ける。(3)の菊菜、水菜の汁けをきって巻きすで成形し、ごまを付けて里芋に添える。
年間を通じて手に入れることができる里芋ですが、小芋用品種は8月下旬から10月までの秋が旬。球形で粒そろいがよく、柔らかくて味わいもやや淡白で、衣かつぎなどの料理で親しまれています。里芋の主成分はデンプン質。加熱することで糊化し、消化吸収しやすくなるのが特徴で、タンパク質、ビタミンB群、Cなども含む栄養価の高い食材です。食物繊維も豊富で水分も多いので、いも類の中では低カロリーな食材としても知られています。
1969年、大分県生まれ。京都『たん熊 北店』、福岡『浄水茶寮』(現閉店)勤務を経て、赤坂『BASSIN』料理長就任。2006年、東京・銀座のレストラン型アンテナショップ『坐來大分』の店長兼料理長に就任。大分県内の生産者と連携し、かぼす、椎茸、豊後牛、関あじ、関さばなど優れた食材の普及に尽力し、現在も顧問を務める。2011年農林水産省「料理マスターズ」ブロンズ賞受賞。2014年、『八雲茶寮』料理長に就任。日本の風土が育んだ食材や郷土料理など、古来からの知恵を活かした料理を身上とする。
カード│使用可