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1人分 181kcal 食塩相当量 1.6g
真鯛の下処理、野菜の切り方、
炊く順と、ポイント満載。
秋の季語「障子貼る」にちなみ
大名おろしの真鯛を粋な一品に。
年末の大掃除を思い出す障子の貼り替えですが、俳句で「障子貼る」は、秋の季語。ガラス窓やサッシがなかった時代、障子が寒さをしのぐ役目を果たしていたことを教えてくれます。今回は「障子貼る」にちなんで、旬の真鯛を大名おろしにして酒蒸しに。大名おろしとは、背と腹を一気におろす三枚おろしの方法で、骨の部分に多く身が残る「贅沢切り」であることからその名が付いたといわれています。中落ちと呼ばれる骨周りは脂が多くおいしい部分。季語にちなみ、おいしい骨周りの身を障子に見立てて酒蒸しにした粋な料理です。
大名おろしは、尾側から包丁を入れて頭のほうに引いていきます。通常の三枚おろしはなるべく切り身を厚く、きれいに取るようにしますが、大名おろしは、思い切って骨に身を残すこと。身は火を通すと縮むので、厚みが足りないと穴あき障子になり、せっかくの風情が台無しになります。切った身と骨は霜降りにして、汚れをきちんと取り除いておく。骨の髄に血が残っていることがあるので、竹串で丁寧に取り除きます。あとはほかの材料と一緒に炊くだけ。コツはよく切れる包丁を使うことです。魚のおろしが苦手な人はこれを機に是非挑戦してみてください。おろした魚は、切り身の魚より一味も二味も違いますよ。
材料の切り方にも、いくつかポイントがあります。椎茸の軸は格子型に切り目を入れておくと、火が入りやすい。チンゲン菜は、茎と葉を別々に炊くので、分けて食べやすい大きさに切る。かぼすの切り方にも注目です。通常、串切りにしがちな柑橘類ですが、実は串切りは果汁を搾りにくい。極厚の輪切りを作るイメージで横向きに4分割にしたものを半分にすると、手で搾ったときにより多くの果汁を得られます。
炊く順序は、まず真鯛と椎茸から。酒蒸し地に椎茸のだしが加わり、風味が増すからです。真鯛の上下を返すときに、チンゲン菜の茎の部分を加え一緒に炊く。真鯛、椎茸、チンゲン菜の茎を器に盛って、残りの地でチンゲン菜の葉と豆腐をさっと温めます。仕上げに酒蒸し地を回しかけ、かぼすとお好みで柚子胡椒を添える。地とかぼすと柚子胡椒で、器の中で作ったお好みのポン酢で味わうイメージです。
骨周りを“あえて”活かした粋な味で、「障子貼り」という暮らしの所作を料理に見立てることで、季節に寄り添う暮らしを楽しむ心持が生まれる。旬の食材で、塩分量やカロリーにも考慮しながら、心も満足する一品です。
真鯛を三枚におろす。通常は、背と腹の両側から刃を入れるが、包丁を尾の背側から入れて腹に突き刺し、一気におろす。身も骨も4〜5等分に切る(三枚おろしに自信のない人は切り身を使っても可)。
通常の三枚おろしに比べ、骨周りに身が多く残る贅沢なおろし方であることから「大名おろし」と呼ばれる。脂身の多い骨周りの肉を活かす料理に。
真鯛以外の材料を切る。椎茸は石づきを取り、軸に火が入りやすいよう切り込みを入れる。チンゲン菜は、茎と葉を分けて5cm程度の長さに、豆腐は4等分にする。かぼすは天地を切り落として、輪切り状に4等分したものを半分に切っておく。
かぼすは串切りにするよりこの切り方のほうが果汁を余すことなく搾れる。
(1)の真鯛を霜降りにする。湯を沸かして真鯛を入れ、表面が白くなるまで加熱したら冷水に浸し、表面に残ったぬめりや血などを取り除く。
血は生臭さの原因になるので、骨に竹串を刺し髄の血も取り除く。
フライパンに酒蒸し地と椎茸、真鯛(身は皮目を下にする)を入れて強火にかけ、沸いたらアクを取って弱火で約5分炊く。真鯛の上下を返してチンゲン菜の茎を加え、さらに約3分炊く。
(4)を取り出して器に盛り、残った地にチンゲン菜の葉と豆腐を入れて、軽く温める程度に火を通し、器に盛る。酒蒸し地をかけてかぼす、お好みで柚子胡椒を添える。
「◯◯鯛」という名の魚は非常に多いですが、タイ科に属するのは真鯛、黒鯛、血鯛とわずか数種。単に「鯛」と言ったら真鯛を指すほど、真鯛は鯛の代表格的存在です。「めでたい」という言葉から縁起ものとして、古くから祝いの場で親しまれて来た歴史を持ちます。年間を通して漁獲があり、近年は質のいい養殖ものも出回っていることから、いつでも手に入れることができますが、天然ものの旬は秋から冬。栄養面でも、脂質が少なく、タンパク質豊富なヘルシー食材。グルタミン酸、アスパラギン酸をはじめとする必須アミノ酸も多く含んでいます。
1969年、大分県生まれ。京都『たん熊 北店』、福岡『浄水茶寮』(現閉店)勤務を経て、赤坂『BASSIN』料理長就任。2006年、東京・銀座のレストラン型アンテナショップ『坐來大分』の店長兼料理長に就任。大分県内の生産者と連携し、かぼす、椎茸、豊後牛、関あじ、関さばなど優れた食材の普及に尽力し、現在も顧問を務める。2011年農林水産省「料理マスターズ」ブロンズ賞受賞。2014年、『八雲茶寮』料理長に就任。日本の風土が育んだ食材や郷土料理など、古来からの知恵を活かした料理を身上とする。
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