
1人分 171kcal 食塩相当量 0.9g
既製品を上手に活用した
塩分控えめ、失敗なしの一品。
「ゆず湯」のイメージで
コトコトじっくり炊き上げる。
早いもので今年も冬至が近づいてきました。小豆と一緒に炊く冬至かぼちゃは冬至の食習慣として有名ですが、今回はひとひねり。ゆず湯にちなんだ甘鯛の一品をご紹介します。
ゆず湯は江戸時代から続く冬至の習慣です。ゆずには血行促進効果があり、「ゆず湯に入れば風邪をひかない」という言葉があるほど。
ご紹介する「ゆず湯炊き」は、ゆず湯に浸かるようなコトコトした火入れで作る一品。甘鯛で作るこの料理は、店でも冬の定番。店では魚のすり身を作り、帆立も生のものを使いますが、はんぺんと帆立缶を使えば、ご家庭でも手軽に再現できます。
まずは甘鯛に挟むムースを作ります。はんぺんと帆立缶に少量の卵白を加えてフードプロセッサーで混ぜるだけ。帆立の身は、半量をあらかじめ加え、あらかた混ざった後に残りを加えると、一部は生地になじみ、一部食感が残り、味わいが深まります。ペースト状になったムースができましたら、観音開きにした甘鯛に挟んで、油をひいたフライパンで軽く焼いてから、調味料で炊いていきます。
フライパンで焼くのは、甘鯛とムースを結着させるのが目的。皮を焦がさない程度の火加減で焼くのがポイントです。一体化したら、別であらかじめ炒めておいた野菜と一緒に炊き合わせます。今回は黒皮かぼちゃとしめじを使いました。ふつうのかぼちゃに比べてみずみずしく味わいのさっぱりした黒皮かぼちゃは、旨みの淡い魚の炊き合わせには好適です。きのこはいいだしが出るので、しめじも加えます。
炊き合せる際の火加減が「ゆず湯炊き」の名の所以。食材が「いい湯」という程度の、コトコトとした火加減で、じっくり味を含ませます。仕上げにゆず果汁を搾ることで、ほどよい酸味をプラス。水溶き片栗粉でとろみを付け、刻んだゆず皮を添えて盛り付けます。
既製品のはんぺんと缶詰の汁を調味料代わりに使用することで、失敗しづらく、調味料の塩分は最小限に。素材の滋味をゆずの香りとともに楽しむ、アツアツのあんかけ仕立ての炊き合わせ。「舌で味わうゆず湯」で、冬至の食卓に彩を添えてみてはいかがでしょうか。
はんぺん、卵白、帆立の缶詰と、缶詰の汁(1/6缶分、分量外)をフードプロセッサーでペースト状にする。
ヘラなどですくって角が立つ固さ。帆立は半量ずつ分けて入れると、食感に違いが出る。
甘鯛を観音開きにし、軽く塩を振って水けを拭き取る。片栗粉(分量外)で打ち粉をし、(1)を挟む。
フライパンに少量のごま油をひき、薄切りにした黒皮かぼちゃとしめじを炒め、皿にあげておく。
フライパンを熱して中火で(2)の甘鯛を両面を焦がさないように焼く。酒を加えてアルコール分を飛ばしたら、黒皮かぼちゃとしめじを入れ、だし、みりん、淡口醤油を加えて炊き合わせる。
フライパンのふちに気泡ができるくらいの火加減で、味を含ませる。
甘鯛に火が通ったら、ゆず果汁を搾る。水溶き片栗粉でとろみを付けて器に盛り付け、刻んだゆずの皮を添える。
ゆず果汁を最後に加えることで、爽やかな香りと酸味が生きる。
爽やかで独特な香りと色鮮やかな果皮を持つゆずは、日本料理に欠かせない食材。世界的な日本食ブームの今、海外でも「ユズ」と呼ばれて親しまれています。初夏に花を咲かせ、夏に実が実ります。夏に収穫した果皮の青い実熟果は、ゆずこしょうづくりに用いられます。実が黄色く熟すのは11月下旬から12月で、その時期がゆずの旬。ビタミンCの含有量が多く、果汁より果皮に豊富に含まれています。水溶性の食物繊維であるペクチンも豊富。果皮の色彩と芳しい香り、爽やかな酸味と、さまざまに料理をおいしくしてくれるゆずで、冬の料理をより豊かに、健やかに仕上げましょう。
1969年、大分県生まれ。京都『たん熊 北店』、福岡『浄水茶寮』(現閉店)勤務を経て、赤坂『BASSIN』料理長就任。2006年、東京・銀座のレストラン型アンテナショップ『坐來大分』の店長兼料理長に就任。大分県内の生産者と連携し、かぼす、椎茸、豊後牛、関あじ、関さばなど優れた食材の普及に尽力し、現在も顧問を務める。2011年農林水産省「料理マスターズ」ブロンズ賞受賞。2014年、『八雲茶寮』料理長に就任。日本の風土が育んだ食材や郷土料理など、古来からの知恵を活かした料理を身上とする。
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