鈴木 大地

アスリートライフ

水泳は健康寿命を伸ばすのにすごく効果的。
こんなに可能性に満ちたスポーツはほかにありません。

 水泳は、健康寿命を延ばすためには打ってつけのスポーツです。現代の日本では平均寿命が世界的にも長い。これ自体はいいことなのですが、健康寿命との差が問題となっています。それを解決し、健康寿命を伸ばすのが水泳だと思っています。

 私は現役引退以降も、後進を育成する立場から、またスポーツを学術的に研究する立場から、長年にわたって水泳と関わってきたわけですが、そんな中で感じるのは、水泳をしている人は概して、健康状態が良好だということ。日常的に運動をしていない人はもちろん、水泳以外のスポーツをしている人と比べても、健康への意識が高いのではないでしょうか。食生活に気を遣っている人も多いと思います。事実、私が過去に携わった研究で も*1、日頃から水中運動をしている人は、 普段運動する習慣がない人よりも、体脂肪量や血清脂質が低値である、というデータが出ています。さらに、体が水圧を受けることで血液の巡 りがよくなり、腹式呼吸も促される、というプールの効用もあります*2。つまり、泳ぐということは生活習慣病の予防にもつながるわけです。

「水泳の日」も創設します。
“国民皆泳”をスローガンに、水泳の一層の普及に努めていきたい。

 それに、水の中は浮力があるから体の不自由な方でも動きやすい。水圧や水温によって新陳代謝も活発になる。私は、寝たきりの方でも水泳をすることで元気を取り戻せるはずだと信じています。そう言えば、先日行われたある水泳大会でも、車いすの方が参加されていました。その方は、プールサイドをスタート台まで車いすでやってきて、そこからおもむろにバシャーンと飛び込んで泳ぎ始めた。そしてゴールして水から上がると、また車いすに乗って退場されていきました。あの光景には感動しましたね。そしてさらに言うなら、水泳によって人々の健康が維持されることで、医療費も抑えられるはずです。水泳は、優れた競技スポーツであると同時に、生涯スポーツとしても利点がたくさんあるんです。

 このような水泳の効用を知っているので、私自身も当然、毎日泳ぎたいという思いはあるんですが、残念ながら思う存分に泳げていないのが実情です。実は水泳選手の場合、少し泳いだところで大きな運動にはならないんですよ。2時間ぐらい泳ぎ続けないと運動効果が得られない。ところが現在の私は、仕事にとられる時間も多く、運動にそれほど時間をかけられないんです。

 だから最近は、1週間に一度は必ず走り込むようにしています。ほかにも、近場の移動はなるべく歩くようにしたり、エスカレーターやエレベーターには乗らず階段を使ったり、適度な運動を常に心掛けています。

DAICHI SUZUKI鈴木 大地

1967年生まれ。日本水泳連盟会長、順天堂大学教授(スポーツ健康科学部)。1988年ソウル五輪で「バサロ泳法」を駆使し、100m背泳で金メダルを獲得。1992年引退後、米・ハーバード大学でのコーチ研修留学を経て、医学博士号を取得。JOC理事、世界オリンピアンズ協会理事などを歴任し、水泳の普及に力を注ぐ。2013年、史上最年少で日本水泳連盟の会長に就任。また現在、日本オリンピアンズ協会会長も務めている。

 ともあれ水泳は、赤ちゃんからお年寄りまで楽しめる唯一のスポーツ。何歳からでも始められるので、興味を持たれた方はぜひ一度プールに行ってみていただきたいですね。これは水泳に限ったことではないかもしれませんが、スポーツを趣味に持つと、生活に張り合いが出てきます。私はかつて、スイミングコーチの研修でハーバード大学に籍を置いていたことがあるんですが、教え子たちは皆、水泳も学業も、どちらも手を抜かず頑張っていました。テストの成績が悪くても「でも俺には水泳がある!」と、がむしゃらに泳いだりして、気分転換を図っていた。さすがハーバードの学生は違うなと感心したものです。我々も、仕事とスポーツと、うまく気分転換を図りながら、それぞれバランスよく打ち込むことが大切なのだと思います。

 日本水泳連盟では現在、よりたくさんの方々に水泳に親しんでもらおうと、さまざまな取り組みがなされていますが、その象徴ともいえるのが「水泳の日」の創設。年に一度、泳ぐことの楽しさを改めて見直す1日を作ろうと、文科省、JOC、日本体育協会と連動して、来年8月14日から実施される予定になりました。水泳教室などのイベントを全国規模で展開する予定です。

 実を言うと我々は、水泳界の現状に一抹の不安も感じているんです。たとえば、最近は学校の教師でも泳げない人がかなりいます。水泳の授業だけは、近所のスイミングクラブのコーチが教えに来ていたりする。また近年、公営のプールの老朽化が進んでいることも深刻な問題です。いずれにせよ、国や自治体の水泳に対する取り組みが、まだまだ足りないのだと思いますね。基本的なことを言うと、災害対策の観点からも“泳げるか・泳げないか”は人命にかかわる重要な問題なわけで、公的な機関がきちんと考えなくてはならないはずなんです。国と民間が力を合わせて“泳げない人”を減らしていくことが急務だと私は思いますね。

 我々はこれからも“国民皆泳”をスローガンに、水泳のより一層の普及に努めていきたい。国民の皆様にどんどん泳いでもらい、ずっと長く健康でいてほしいと願っています。

*1出典:
島田和典(順天堂大学医学部准教授)「水中運動による抗動脈硬化作 用機序の解明」
*2出典:
須藤明治(国士舘大学体育学部)、角田直也(国士舘大学体 育学部身体運動学教室)、渡辺剛(国士舘大学体育学部運動生理学教室)「水中運動後の陸上時の筋組織血液動態」

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2014.04.21 UP