植田 辰哉

アスリートライフ

バレーボールは青少年からシニア世代まで、
自分の体力・考え方に合わせて楽しめる生涯スポーツ。

私は現在、日本バレーボール協会の発掘育成委員会副委員長として全国をまわり、幼年期から老年期までを含めた生涯スポーツとして、バレーボールの普及に努めています。バレーボールには、6人制の本格的なものだけでなく、柔らかいボールを使い、初級者にもやさしいソフトバレーや、粘り強くラリーを続けることが魅力の9人制バレー、夏の行楽にも合うビーチバレーなど多様な形があり、自分の体力や考え方に合わせて、さまざまな楽しみ方ができます。また、ネットを挟むため接触プレーが少なく、大きな事故や故障が起こりにくいのも特徴で、70歳のプレーヤーもいます。シニアでも比較的安全に楽しむことができ、健康寿命を伸ばすことにも役立つスポーツといえるのではないでしょうか。

また、バレーボールには高い教育効果も期待できます。いくらすばらしいアタッカーがいても、ボールを拾い、トスを上げる選手がいなければ、得点はできない。他のチームスポーツと比べても協調性が重要になるのです。もちろん、コートに立つレギュラーメンバーだけでなく、控えの選手やマネージャーも大切な役割を担います。いまの子どもたちになくてはならないのは、「自分は必要とされているんだ」という“受容感覚”を高めることです。そのため、私は指導をしているとき、「ボールを拾ってくれている子たちがいることで、レギュラーがどれだけ効率的に練習できているか」ということを、みんなの前で伝えるようにしています。誰もが必要とされ、一つの目標に向かってがんばる――これは、個人競技ではなかなか得られない経験かもしれません。

自分を律して練習に打ち込むことで、
人は「達成感」を得ることができる。
目標を定めることで、心身の発達を。

問題は、そうした基礎を教える指導者が不足していることです。最近では運動できる環境も減ってきており、自分の身体をきちんとコントロールすることができない子どもも増えています。幼年期に覚えるべき動作として、立つ、歩く、走る、またぶら下がったり、ものを押したり引いたり、投げたり、泳いだり…と、36の基本動作があると言われていますが、そうしたことがうまくできない。昔は野山を駆けまわって自然に覚えていたことで、例えば1972年のミュンヘンオリンピックで金メダルを獲得したバレーボール男子代表の選手は、大きな身体でバック転したり、倒立しながらコートを一周することもできたんです。だからこそ、世界を席巻した「一人時間差攻撃」など、アクロバティックで創造的な新しい技を開発することができたのだと思います。スポーツにかぎらず、例えば「水に浮く」という動作ができないために、水難事故が大事につながってしまうこともあります。これについては、体育できちんと指導できる体制を作らなければなりません。

スポーツは「楽しむこと」が大切です。しかし、同時に厳しく自分を律し、練習に打ち込むことで得られる「達成感」がなければ、その魅力は半減してしまう。例えば、ママさんバレーのチームを指導するときに、私は「試合に勝ちたいか、楽しみたいか」と聞きます。答えとしては「楽しむためにやっている」という言葉が返ってくるのですが、楽しいだけの練習、コーチングをすると、選手は決して喜びません。息が上がるような厳しい練習をすると、そのときは辛くても、終わった後に大きな笑顔を見せてくれるんです。仕事も同じかもしれませんが、社会人が生活にスポーツを取り入れるときにも、漫然と身体を動かすのではなく、目標を設定し、コンディションをピークに持っていくためにどうすればいいか、逆算してプランニングすることが重要です。

TATSUYA UETA植田 辰哉

1964年生まれ。元バレーボール全日本主将であり、前バレーボール全日本男子代表監督。92年のバルセロナオリンピックにキャプテンとして出場。その後は指導者として、新日鉄ブレイザーズ監督、全日本ジュニア男子チーム監督などを歴任。現在は、日本バレーボール協会男子強化委員会副委員長、母校・大阪商業大学の特任教授を務めるほか、薩摩川内スポーツ大使や東かがわ市ふるさと大使として、バレーボールの普及に努めている。

自分を律する――これは、私が全日本男子の監督をしていた際にも重視していたことです。経営者の方もよく言われることですが、能力だけでは結果は出ない。人としての規律・規範があり、熱意と人間性がともなって、初めていいチームになります。それが日本代表ともなれば、老若男女多くの方に見られているし、子どもたちにとってはロールモデルになる存在でなければなりませんから、なおさらシビアに考えなければいけない。私生活にも乱れがないよう、選手たちに厳しく求めてきました。

アジア大会でも活躍が期待されている、女子日本代表チームは、世界の強豪と見事に渡り合っています。女子バレーが世界と渡り合うことができている一つの理由として「ラリーが長い」ことが挙げられます。瞬発力、単純なパワーでは勝てない日本人も、持久戦に持ち込めば勝機がある。テニスの錦織圭選手が長期戦で高い勝率を誇っていることからも分かるように、これは日本人の特性です。忍耐強く戦う身体と精神を鍛えれば、身体が大きく力の強い海外の選手にも、負けることはありません。

2020年の東京オリンピック開催も決定し、日本のスポーツ界が盛り上がるでしょう。ただ、私はここをスタート地点だと考えてもらいたいと思います。現在、オリンピックを目指している若い選手たちは、いずれ親になり、もしかしたらママさんバレーの指導者になるかもしれないし、学校の教師なるかもしれない。そうしてボールをつなぐように、スポーツという文化を次の世代に伝えていく。東京オリンピックが、そんなきっかけとなる大会になれば素晴らしいですね。

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2014.09.16 UP