福井 烈

アスリートライフ

錦織圭選手の活躍でテニスへの関心が高まっている今、
同競技の楽しさや生涯スポーツとしての魅力を伝えたい。

錦織圭選手が先日行われた全米オープンで準優勝という快挙を成し遂げたことで、今、テニス界は大きな盛り上がりを見せています。日本人の選手が全米オープンの決勝で戦い、世界の頂点が見えたことは、長くテニスに携わってきた人間としてもとても誇らしいことです。彼の功績を最大限に活かせるよう、我々指導者もまた力を尽くさなければいけないと思っています。テニスの普及、および発展において、今ほど良いタイミングはなかなかないでしょう。

テニスという競技は、サッカーや野球のように日常に浸透しているものではないので、小さな子どもが自らやりたいという発想はなかなか起きにくいものだと思います。幼稚園や小学校低学年の子どもがテニスをする場合、ご両親の勧めという場合がほとんどです。しかし今回、錦織選手の活躍により、彼がプレーする映像が日本全国で何度も放映されました。これはとても重要なことで、多くの人々――特に子どもたちがテニスに憧れを抱くきっかけとなったはずです。また、最近ではテニス漫画も人気を博していて、テニス界にとっては良い状況になってきています。こうしたきっかけでテニスに関心を持った子どもたちが、気軽に近所のテニスクラブなどで始められるよう、我々がシステムを整えたり、情報を発信したりすることがより大切になっていくと思います。

青少年の心身の発達という面において、テニスという競技から得られるものは少なくありません。これはスポーツ全般に言えることですが、毅然としたルールの上に成り立つものなので、競技を通して子ども達は自然とルールを守ることの大切さを学ぶことができます。ルールを守るということは、今の世の中にとって非常に重要なことで、教育という面から考えても大きなものです。またテニスという競技においては、コートに入ったらたとえ小学生でも、外からアドバイスを貰ってはいけない、というルールがあります。つまり、何事も自分で判断して動かなければならないのです。そういう意味で、テニスは子どもたちの自立心や判断力、集中力などを養うのにぴったりな競技と言えるでしょう。

老若男女が楽しめるテニスは、
親から子、子から孫など3世代で繋がれる
スポーツ・コミュニケーション。

一方、今回の錦織選手の活躍で、改めてテニスが過酷なスポーツであることも伝わったかと思います。たった一人で逃げ場もなく、時には4時間もの長丁場を戦い抜くのは、一般の方の想像を越えるような辛さです。また、それだけのハードワークをすれば、怪我をすることもある。しかし、怪我には普段のトレーニングや食事、休養などで防げるものも多いです。錦織選手は食事療法を含めて体力面を強化することによって、みるみると体つきが変わってきました。アスリートの生活を皆に勧めるわけではありませんが、テニスを通じて日々、食生活など規則正しい生活を送ることを心がけるようになれば、普段から怪我をしにくい、丈夫な身体を作れるのではないでしょうか。

テニスはまた、子どもや青少年だけではなく、シルバー世代の方々にも人気のスポーツです。シルバー世代は競技人口が増加していて、80〜85歳を対象としたダブルスの全国大会も開かれています。我々はそういったニーズに合わせて、少し空気を抜いた柔らかいボールで楽しむテニスを提案しています。プライベートクラブにはコミュニティがあるので、定年を迎えたシルバー世代の方々の社交場としても機能するでしょう。また、お孫さんとともに世代を超えたスポーツ・コミュニケーションを楽しむこともできます。シルバー世代がお孫さんにラケットを買ってあげて、その子がテニスを始めるきっかけになるーーそんな風に家族の生涯スポーツとしてテニスと向き合えば、健康寿命の伸長にも役立つと思います。

TSUYOSHI FUKUI福井 烈

1957年、福岡県生まれ。男子プロテニス選手、ブリヂストンスポーツ専属。1977年に当時史上最年少の20歳で全日本テニス選手権を制覇した。その後1979年まで全日本3連覇を達成し、同年プロデビュー。1992年から1996年までデビスカップ監督、1992年バルセロナ五輪日本代表監督、1996年アトランタ五輪のヘッドコーチ、2000年シドニー五輪の日本代表監督を務めた。現在は日本テニス協会常務理事、日本オリンピック委員会理事を務める傍ら、テレビ解説などを通してテニスの普及に努めている。

2020年には東京オリンピックが開かれます。そこで日本の選手がベストパフォーマンスを発揮して、たくさんのメダルを獲得し、多くの人にスポーツの素晴らしさを改めて感じてもらうためには、スポーツの普及・強化が必要不可欠です。その一端を担えるよう尽力するのが、今の私の目標です。あまり知られていないことですが、実はオリンピックで日本人が最初にメダルを獲得した競技は、テニスなんです。1920年、ベルギーで行われたアントワープオリンピックにて、男子テニスの熊谷一弥さんがシングルで銀メダルを獲得、柏尾誠一郎さんとのダブルスでも銀メダルを獲得しました。日本人初のメダルからちょうど100年目にあたる2020年、多くの日本人選手が活躍することを期待しています。

テニスに限らず、スポーツは人を成長させます。時にスポーツは、いくら努力しても絶対に届かない世界があることを教えてくれます。それは残酷なようですが、しかしネガティブなことばかりではありません。私自身、悔しい思いをすることもありましたが、だからこそ自分が何をすべきか、地に足をつけて考えることができるようになったと思います。アスリートの多くは負けず嫌いで、向上心が強くて、研究心が旺盛で、肝も座っています。そうした人材は、社会の中でもきっと役立てるはずです。そういう意味で、スポーツは社会と繋がっています。これからもテニス・スポーツの普及・発展に寄与することで、健全な社会を育む一助になればと思います。

毎月1回更新Powered by 東京カレンダー

2014.10.20 UP