西川 大輔

アスリートライフ

体操には素質だけではなく、考え方や経験、
自分でチャンスを獲得していく力が必要。

現在、日本大学文理学部で教員をしながら体操部のコーチを務めています。平日は夕方まで授業や教員としての仕事をこなし、夕方以降と週末は体操部の練習なので、休みという休みはない状態です。現在コーチを務める日本大学チームの成績を上げる為に、今は「チームとしていかに戦っていけるか」をテーマに、基本に立ち返って練習を指導しています。

オリンピックを経験した人間として、「どういう心構えで練習していたか」というようなことは、選手たちに話します。当時は毎日「自分が日本で一番いい練習をしているか」ということを意識しながらやっていました。大学に入り、高校時代まで一緒にやっていた池谷(幸雄)選手と別々になったときは、「(池谷選手に)負けないくらい練習できているか」と常に考えていました。ライバルは当時の私にとっては大きな存在でしたね。

できないことができた成功体験は
さらにやってみようという挑戦する気持ちにつながる

今は内村(紘平)くんたちの頑張りのおかげで体操競技はメディアの露出も注目度も高い。オリンピック競技の中でも恵まれていると思います。体操クラブもたくさんありますから、競技人口も増えています。そして、日本の体操界のジュニア選手育成のレベルはかなり高く、素質のある選手というレベルで言えば、山ほどいる状態です。その中から勝ち上がるには、素質というよりも、考え方や経験、自分でチャンスを獲得していく力が必要です。体操の練習は毎日同じことをこつこつとやっていくとても細かい作業なので、メンタル面を鍛えることも指導者としては必要だと感じています。日本に世界チャンピオンがいる、この良い状況のうちに子どもたちが高い技術を吸収し、世代が変わっても発展し続けて欲しいですね。やはり強い選手がいると体操の話題も多くなりますから、それは体操人としては嬉しいことです。

私は素質があったからではなく、身体が弱かったので無理矢理やらされたパターンです。始めは辞めたくて仕方がなかったのですが、できる技が増えていくうちに楽しくなっていきました。人前に出るのも嫌なタイプだったのですが、体操を始めてから体育の授業で鉄棒のお手本となって褒められたり、注目されたりと、周りから認めてもらえた嬉しさで生き生きとしていきました。

日本は愛好家として続けているシニアの方の競技人口も多いんです。年に1回開催される社会人のシニア大会では70歳ぐらいの方が活躍しています。体操は上半身と下半身がある程度バランスが取れる競技です。健康面を振り返ると、44歳になりましたが、続けてきたことによって他の同世代の方よりは柔軟性をキープできていると思います。ストレッチも身体が柔らかくないと効果的なところまで伸ばせませんから。

DAISUKE NISHIKAWA西川 大輔

1970年生まれ。元体操選手。4歳から体操を始め、清風高校在学中の1988年にソウルオリンピックに出場し、同級生の池谷幸雄と「清風コンビ」として一世を風靡する。団体総合の鞍馬で10点満点を出すなど、銅メダル獲得に大きく貢献した。1992年のバルセロナオリンピックにも出場し、団体で銅メダルを獲得。1997年からは日本大学高等学校・中学校の講師に、1999年からは日本大学講師に就任。現在は日本大学文理学部体育学科の准教授として授業を受け持つ傍ら、体操部コーチとして後進の指導にあたっている。

あとは基本的なことですが、食は体調のバロメーターだと思います。我々の時代は、スポーツ選手は「とにかく食べて、動く」という教えでしたから、現役時代は周りがびっくりするくらい食べていました。一度、選手みんなで焼鳥屋に連れて行ってもらったときには、そのお店の冷蔵庫のものがなくなってしまったほど。今の選手たちは、大学生の場合は合宿所生活で食事が管理されているので、自然とバランスの良い食事を摂っています。今は情報も多く、大学でスポーツ栄養学の授業もありますので、細かいことまで注意している選手は多いと思います。

大学の授業で多くの若者と接していますが、やはりスポーツ離れの現実を感じます。運動をしてきていない子たちがとても多い。小さいときに転んだり回ったり、飛んだり着地したりといった、我々の時代には当たり前だった遊びをしていないので、「ジャンプしてクルッと1回ひねって安全に着地する」とか、そんなに難しくないことができない。授業ですから、特別な筋力も身体の柔らさも必要なく、適切な指導をすればできることを取り入れています。鉄棒の“蹴上がり”も、筋力ではなくてやり方なんです。教えてできた子たちは「マジックだ!」と言って喜んでいました。補助つきで宙返りさせたりもするんですが、とにかくみんな回ると喜びます。できないことができるという成功体験は非常に大切で、さらにやってみよう気持ちにつながります。スポーツだけでなく、何でもそうだと思いますが、やらないでそのままにせず、小さなことでも挑戦して欲しいですね。

2020年の東京オリンピックはとても楽しみではありますが、焦りもあります。大学で指導をしている以上、結果を出して恩返しをしなくてはいけないですから。もちろん、オリンピックに出場できる選手の育成を目標として取り組んでいくつもりです。

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2014.11.17 UP