小宮 正江

アスリートライフ

目隠しをすれば、誰でも楽しめる!
ゴールボールは心の健康にも役立つ、 思いやりの必要なスポーツです

ゴールボールは、アイシェード(目隠し)をして、1チーム3人で行う競技です。競技名の通り、鈴入りの「ボール」を転がすように相手コートに投げ、相手チームの3人が守る「ゴール」を狙い、得点を競います。中腰で構え、ボールに反応して素早く動くため、運動量は意外に多い視覚障がい者の競技ですが、アイシェードをすれば老若男女、誰もがプレーできるスポーツですし、ダイエットにも健康寿命の伸長にも、効果が期待できると思います。

またゴールボールは、思いやりとコミュニケーションが重要な競技でもあります。目隠しをしていると、パスひとつするにも、チームメイトのことを考え、声をかけ合わないないとうまくいきません。現役を退いた今、昨年4月には職業訓練受講中の障がい者の方々へ対して、就労に向けた体力づくりと心の安定を目指し「CCフィットネス」というカリキュラムを開講しました。その一部で、ゴールボールも取り入れています。

すると、受講生からは、適度な運動習慣と生活習慣の改善、他者への配慮が身に付き就労へ役立ったという報告もいただきました。今年から弊社では「暗ラーニング(UN-LEARNING)」として、職場のコミュニケーションギャップを解消するためのプログラムとしても展開しています。多くの方が心身ともに健康に過ごすことに貢献するためにも、競技の普及に努めているところです。

常に運動を意識して、
日々をもっとアクティブに――
引退して分かった健康の秘訣

私がゴールボールに出会ったのは2001年。小学生時代に「網膜色素変性症」と診断され、徐々に視力が低下するとともに視野が欠けていきました。中学まではバレーボール部に所属していましたが、高校時代にはもうスポーツはできないと思っていました。大学卒業後、福岡視力障害センターでマッサージを学んでいるなかで、体育教官の先生がこの競技を教えてくれたのです。「ボールを使った競技ができる」というのが本当にうれしく、失敗しても「目が悪い」ことを言い訳にできないので、自分がこんなに負けず嫌いだったんだ、と気付かされました(笑)。そうして、半年後には国内大会へ初出場。初優勝し、1年後には世界大会に出場することができました。

車いすテニスやブラインドサッカーなどは、テニス、サッカーというもともとの競技があり、うまくアレンジされているため注目が集まりやすいと思います。一方、ゴールボールはオリンピックにはない独自の競技であり、知名度はまだまだ低い。けれど、知れば知るほど奥深いスポーツで、鈴入りのボールを使った“音の騙し合い”は、見た目以上にエキサイティングなのです。

2004年のアテネ大会では、銅メダルを獲得することができましたが、金メダル獲得を目標にしていました。しかし当時は、そのメダルの重さを理解できていませんでした。2008年の7位に終わった北京大会では、日本代表という誇りや、支えてくださっている人々の大切さなどを改めて感じることができました。そして、キャプテンとして出場した2012年のロンドン大会で金メダルを獲得。決勝は強豪の中国代表が相手でしたが、やるべきことはすべてやってきたので、コーチや監督からも最後は「笑え」――つまり、「あとは楽しむだけだ」と伝えられたことを覚えています。

MASAE KOMIYA小宮 正江

元ゴールボール全日本女子主将。1975年、福岡県生まれ。小学生の時に網膜色素変性症を発症。小学5年生から中学3年生まで、バレーボール部で活動するが、高校生になるとスポーツが困難に。九州産業大学卒業後、マッサージの資格を取得するため国立福岡視力障害センターに通い、ゴールボールと出会う。2004年アテネパラリンピックでは銅メダルを獲得、12年ロンドンパラリンピックでは団体競技初の金メダルを獲得。障がい者スポーツ選手雇用センター「シーズアスリート」に所属し、ゴールボールを取り入れたフィットネスの指導を行いながら、2020年東京オリンピック・パラリンピックアスリート委員会のメンバーも勤める。

引退した今は、2005年から勤務している障がい者スポーツ選手雇用センター「シーズアスリート」で仕事をしながら日本代表チームの強化スタッフとして後進の選手たちを指導しています。ゴールボールの世界ランキングは、2015年3月現在で女子が2位、男子が17位。両代表とも来年に迫ったリオパラリンピックへの出場権をつかみ、ゴールボールの魅力をより広く伝えることができるように、5月の予選に向けてトレーニングを重ねているところです。

現役を引退して、オフィスで仕事をするようになって気づいたのは、障がいの有無にかかわらず、意識しないとなかなか運動をしない、ということです。現役時代――多くの方にとっては「学生時代」と置き換えられるかもしれませんが、働き始めるまでは自然と身体を動かす機会があり、いわば「健康にさせてもらっていた」状況でした。

気軽にスポーツができる環境を整えることも重要ですが、より簡単で大切なのは、一人ひとりが常に体を動かすように意識を持ち、アクティブになることだと思います。例えば私は、歯を磨くときにチューブを使ったスクワットをしたり、バランスボールに座ってデスクワークをしたり、できることをしています。引退したとはいえ、現役の選手の相手をするためには身体のキレを維持しなければなりませんし、フィットネスで指導をする上でも「先生なのにだらしない」なんて思われてはいけません。体年齢を、現役時代と同じ「23歳」に保たなくては、と考えています(笑)。

スポーツ普及が期待されるビッグイベント、2020年東京オリンピック・パラリンピックも迫ってきています。私もアスリート委員会に参加させていただき、さまざまな競技団体の方とお話しする機会を得るなかで気づいたことがあります。例えばテニスのようなメジャーなスポーツでも、「より多くの方に競技を知ってもらいたい」と考えられていることです。じっくり考えてみると、確かに細かなルールまでは知らない、という方も多いのではないでしょうか。ゴールボールにかぎらず、オリンピック・パラリンピックはさま競技に触れ、その楽しみを見出すチャンスだと思います。私自身も多くの競技に興味を持ち、学んでいきたいですね。

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2015.3.9 UP