伊東 浩司

アスリートライフ

自分の身体を知り、楽しみながら続けることに意義がある――
東京五輪に向けて、日常にスポーツを!

 私は現在、甲南大学(神戸市)のスポーツ健康科学教育センターで教鞭をとりながら、女子陸上部の指導にあたっています。どんな世界でもそうですが、やはり東京に情報が集約されますし、地方では力を伸ばしきれない選手も少なくありません。首都圏と同じやり方をしてもダメだし、関西のやり方をそのまま続けていても進歩していかない――そんな環境を変えるために尽力し、ようやく形が見えてきました。中央の情報も取り入れながら、きちんと下地を作り、将来的には地元の力のある指導者に現場を譲ることができればと考えています。

 健康寿命を伸長させるにあたって、足腰を鍛えることは非常に重要です。現役を退いて最初に感じた衰えはやはり足腰でしたし、逆に足さえしっかりしていれば、多くのスポーツに取り組むことができる。妻(元長距離走・マラソン選手の鈴木博美)もマラソンをやってきましたが、競技の練習を始める前に山歩きをして、“足を作る”んです。日常のなかでよく歩くことを意識するだけで、身体の状態は大きく変わるでしょう。私も神戸市教育委員会の委員として6年目になり、今日も卒業式で近所の小学校と中学校を周りましたが、14キロを徒歩で移動しました。  もっとも、そもそも人間は太古の昔、4足歩行の動物だったわけで、実は2足歩行自体が不自然な動きでもあります。そこで重要になるのは、走る際には“前足”にあたる腕の使い方もきちんと意識すること。とくに肩甲骨をしっかり動かすことで、身体のバランスはよくなります。  健康促進のために運動をしよう、と考えたときに、すぐに長距離を走ったり、激しいスポーツに挑戦したり、という人が多いと思います。あるいは雑誌やテレビを見て、すぐに結果が出そうなトレーニングに飛びついたり、器具を買ってみたり、ということになりがちですが、まずは「自分の身体がどうなっているのか」ということをしっかり把握しないと、逆に健康を害してしまったり、長続きしなかったりする。いきなり「全力で走る(動く)」というのは、われわれアスリートでも、実はとても怖いことなんです。無理のないウォーキングや、ラジオ体操からはじめるのがいいでしょう。  身体がいい状態になって、「ランニングをはじめよう」という段階でも、あまりストイックになりすぎないほうがいいと思います。例えば景色がいい場所を選び、運動の後に美味しいものを食べることを楽しみにする。アスリートのように記録を追求しなくても、意識的に身体を動かすだけで十分、筋力を上げたり、あるいは維持したり、という効果が期待できますから、楽しく続けることを大事にしてください。

KOJI ITO伊東 浩司

1970年生まれ。元陸上競技選手。甲南大学スポーツ健康科学教育センター教授、神戸市教育委員会教育委員。アジア選手権、アジア大会では短距離種目で多くの金メダルを獲得し、98年のバンコクアジア大会・男子100mで10秒00を記録するなど、「アジアの風」と呼ばれる。96年のアトランタ大会、2000年シドニー大会に出場し、好記録を残す。現在は後進の指導とともに、競技の普及活動、スポーツ解説の分野でも活躍中。

 私はジュニア層の指導も行っていますが、いまは来るべき東京五輪に向けて、タレントの発掘が急務になっています。そこで申し上げておきたいのは、早生まれのお子さんについてです。つまり、1〜3月くらいに生まれた子たちは、同じ学年でも4月生まれの子と比べたら1年近い差があり、どうしても体力差が出てしまう。だから、学年別の競技で結果が出なくても当然だということを周知して、早々にスポーツを諦めてしまうことがないようにしたいと考えています。お子さんをお持ちの保護者の方は、周りと比較して足が速くない子でも、「後になって追いつける」という可能性を見てあげてほしいのです。

 リオ五輪の先に東京五輪が見えてきて、これから一流のアスリートを目にする機会が増えていくと思います。大切なのは、東京だけで盛り上がるのではなく、地域も含めて日本全国でムーブメントを起こすこと。これまで関心がなかった競技でも、出身県や学校などから親しみを持てる選手を探して、応援していただきたいです。そうして、普段からトレーニングウェアで過ごせるような、スポーツが日常に溶け込んだ環境ができることを期待しています。

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2015.4.30 UP