神奈川県

湘南しらす

唯一無二の歯ざわりを感じさせる 音を立てて光る「湘南しらす」

恵まれた漁場で獲れる「湘南しらす」
手間暇かけた漁法と鮮度へのこだわりが
唯一無二の歯ざわりを生む

関東屈指の漁場・佐島は、江の島の対岸、三浦半島の中ほどに位置する。ここら辺りの海岸は今からおよそ500万年前に火山灰などが堆積してできた地層でできており、凝灰岩(火山灰が押し固められてできた岩石石)が海水や風雨にさらされた結果、起伏に富んだ地形となっている。そのため、海底には砂や泥が堆積しやすく、貝やカニなどの甲殻類が集まり、アマモ(海藻の一種)が繁茂する。そこへ魚たちが卵を産みにやってくるため、地元の漁師たちはアマモのことを「海のゆりかご」と呼ぶ。この恵まれた漁場から船を出すのは漁師の岩崎晃次さんと息子の茂さん親子。晃次さんはこの道50年。佐島から藤沢一帯の沖に生息する「湘南しらす」をとり、釜揚げから加工までを家族総出で行っている。

「何しろ、しらすは水だよ」と晃次さん。降った雨が山肌に吸われて多くのミネラル成分を含み、河川に沁みだす。その水が海に注ぎ込み、海水とまじりあって出来る帯状の境目を潮目という。ここに豊富なプランクトンが発生し、しらすのエサになるというわけだ。ちなみに、しらすとは、まいわし、うるめいわし、かたくちいわしの生まれて1カ月足らずの半透明の仔魚のこと。群と種類によって産卵期が違うため、ほぼ年間を通じて獲ることができるが、神奈川では資源保護の観点から毎年1月から3月中旬までを禁漁期としている。「禁漁あけから獲れ始めるしらすを春しらす。夏場獲れるのを夏しらす、秋は秋しらすと言います。いわしは海水温が20度になってから卵を生むので、時期によって産卵場所も変わります。春しらすはエサが豊富だからぷっくりしていて味もよく、人気があります」そう語る晃次さんが操舵する船に乗り、佐島沖へと向かった。

ピチピチと音をたてて光る
獲れたての湘南しらす
味よく、魚もヒトも大好きな「海の米」

遠浅の海は美しいエメラルドグリーンで、アマモが生息している所だけ黒っぽくみえる。そんな岩崎さん親子の説明を聞きながら寛いだ気分になっていると、突如、2人の動きが慌ただしくなった。魚群探知機がしこいわしの群れ(かたくちいわしのこと。年に4回産卵するため、漁師たちは4回がなまった“しこ”いわしと呼ぶそうだ)をキャッチしたのだ。阿吽の呼吸で網を投げ込む2人。1本の網の長さは200mで、長いロープと大きな魚を逃すための粗網、しらすをとるための細かい網からなる。その網を2本、渦巻状に海に流した後、絡めるようにたぐって回収するのだ。「この網も昔は手でたぐっていたんだ。今は機械まかせになっちまったけど」そう言って笑う晃次さんの腕は太く逞しい。

網の引き上げが始まった。目の細かい網をザッとあけると、陽光を受けたしらすが宝石のようにキラキラと光っている。ピチピチピチという小さな音が耳に心地いい。稚魚の体温は意外に高いため、すぐに傷んでしまう。そこで、氷が入った樽ですばやく冷やしながら、「ちょっと食べてみな」と晃次さん。お言葉に甘えて、まだ生きているしらすを口にした。噛み切った瞬間のぷきゅっとした歯ごたえとじんわり沁みいる旨み、ほのかな塩気が口中に広がる。「旨いか? そりゃ、よかった。いわしは他の魚に食べられ、人間に食べられ、カモメにも食べられる。みんなに食べられるために生まれてきたんだ。まるで、海の米だ」(晃次さん)

獲れたばかりのしらすを持って、岩崎さんの店兼加工場に向かった。加工場に着くがいなや、茂さんが冷たい塩水でしらすを二度洗いする。雑菌の多い海水を洗い流すことで、しらすの鮮度を保つためだ。加工場は機械化されており、衛生管理も徹底している。もちろん、釜揚げの塩分濃度や使用する塩へのこだわりも深い。「湘南しらすは加工業者を通さず、全ての漁師が自分の加工場で釜揚げや天日干しにして卸すので、新鮮で雑味が少ないんです。他のエリアとは漁法も違うんですよ。他は2隻びき(1つの漁網を2隻の漁船が一定の間隔を開け、並んで曳航する漁法)ですが、湘南しらすは1隻びき。2隻だと大量に獲れるけど、1時間ほど曳いているうちに最初に取れたしらすは水圧で死んでしまうんです。そうすると、表面のつるっとした歯触りや、噛んだ時の歯ごたえがなくなってしまいますし、どうしても生臭くなってしまうんです」(茂さん)。雑味のない旨みと唯一無二の歯ざわりを持つ“海の米”を是非。

神奈川県の
地産地消事情

消費者に近く、地形に恵まれた神奈川では
多種多様な水産物とブランド野菜が手に入る

大量消費都市に近い神奈川県の第一次産業の中心は農作物。需要があることと温暖な気候に恵まれていることが相俟って、幅広い種類の野菜や果物が栽培されている。特にトマトやきゅうり、いちごの生産量は高く、なかでも湘南近辺で採れる香りのよいいちごは湘南いちごと呼ばれている。県の南端に位置する三浦半島は、三浦大根をはじめキャベツやすいかの一大産地だ。それら人気の野菜を買うなら、約70年の歴史を持つ「鎌倉市農協連即売所」(通称:レンバイ)がいいだろう。ここでは、鎌倉市が定めた新鮮かつ安心・安全なブランド野菜「鎌倉やさい」を買うことができる。海に目をやれば東京湾と相模湾、遠浅の三浦半島周辺と多くの漁場に恵まれているため、今が旬の湘南しらすやカマスをはじめ、マダイやカワハギ、アナゴ、キンメにタコと多種多様な魚が水揚げされている。