大阪府

水なす

「天下の台所」が誇る 名実ともにみずみずしい食材

傷つきやすく繊細、そして、
「ぼたぼたっ」と滴る水分。
生でも食べられるなす

夏野菜の代名詞のひとつ、なす。古くは平安時代の宮中で食されていたとも言い、中でも水なすは大阪府の泉佐野市や貝塚市が発祥と言われる。大阪というと日本第二の都市としてのイメージが強いが、大阪府の南西部、堺、和泉、岸和田、貝塚、泉佐野、泉南などを総称して「泉州」と呼ぶエリアには畑も多く、農作物が豊富に栽培されている。泉州水なすは、大阪の特産の中でも、真っ先に名前が挙がるものだ。室町時代には既に栽培されていたという。現在はハウス、露地ものと合わせて、5月から9月にかけてが最盛期だ。その多くは漬物として全国に供給されているが、普通のなすに比べて水分が非常に多くアクも少ないため、生食ができる。糖度が10度近く、甘みも強いために、実際かつては果物のような扱いだったらしい。

出荷の最盛期を迎えようとする農家、以前は料理人でもあったという辻裕男さんを訪ねた。「泉州の水なすは堺市から南の狭い範囲でしか栽培されていない、ご覧のような巾着型のなすです。何故このようななすができるのかは、気候風土のお陰としか言いようがないんです。海が近いこともあるかもしれません。他の土地で育ててみても、同じ顔(姿形)のものはできても、これだけ皮が柔らかく、水分が多いものはできません」。ひとつもぎってみせてくれた水なすを、いとも簡単に手で割ってくれた。「ほら」。おもむろにギュッと辻さんが半身の水なすを握る。「ぼたぼたぼたぼたっ!」。ものすごい量の水が滴るのだ。「食べてみますか?」。無造作に「ほい」と渡された水なすを口に運ぶ。甘い。想像以上に甘い。その甘さは確かに、野菜というより果物に近い。「これだけの水分で、何より皮が柔らかいんです。なのでぬか漬けにすると乳酸菌がよく浸透して、柔らかく漬かって美味しいものになるんです」。

大切に扱われ、甘い味に育ち、
大阪の名を背負って食卓に。
皮にはポリフェノールが含まれる

泉州の水なすの栽培は10aの畑が管理の限界と言われるところ、辻さんは8aの畑を3面も管理しているというから、泉州の水なす農家のエースである。通常だと1日およそ500個、月産で15,000個ほどの出荷が主流のところ、30,000個を市場に出すという。「葉掻き、芽掻きが大切なんです」。栽培にあたっては、実に日光を当てるために、陰にならないように葉や脇芽を間引いていく。さらにもう一つ、重要な意味がある。葉ですら実を傷つけてしまうのだ。それほどに皮が柔らかい。収穫や出荷にあたっても、傷が付かないように細心の注意が払われる。収穫されたなすは2L、L、M、Sの4種のサイズと、A、B、C、○(まる)という品質の4 段階で計16種に細かく分類されて出荷される。1ケースは個数ではなく目方が基準で、およそ4kg。。大きいものは1ケースに少数、小さいものは多数入った状態で出荷されるということだ。その仕分けをする機械のベースが果物の桃用であると聞き、その繊細さに改めて驚く。仕分けの初段階と箱詰め作業は当然、手作業だ。

泉州地域の主要な農産物の水なす。その半数は地元である岸和田の市場で扱われ、高級料亭から大手チェーンのお弁当に至るまで、また先述の漬物に姿を変えて、我々のもとに届く。辻さんは言う。「各家庭でぬか床をつくるというのは、私の親世代ぐらいまでかもしれませんが、今でも健康に意識の高い方はご自宅で漬けておられるとも聞きます。そういう方が増えてくださると嬉しいですね。もちろん漬物じゃなくても、生食ができますから、サラダやお造りで召し上がっていただくのも良いと思います」。そのほとんどが水分ではあるが、なすの紫色の部分は葡萄と同じ、ポリフェノールの一種であるアントシアニン系の色素である。抗酸化作用が活性酵素を抑えアンチエイジングに良いとされ、コレステロールの吸収を抑える効果もある。さまざまな食べ方を試してもらいたい、夏にぴったりの食材だ。

大阪府の
地産地消事情

大阪と言えば「食い倒れ」、何より「天下の台所」
特に南西部の泉州は山、海ともに、名産が多い

江戸時代は物流や商いの中心であった大阪。食材についても同様で、大阪は日本有数の食材集積地「天下の台所」でもあった。天王寺蕪や、近年栽培復活や普及が進んでいる毛馬きゅうりなど大阪市内が発祥とされるものに加え、関西空港や「だんじり」でお馴染みの岸和田、堺など大阪府南西部の13市町からなる泉州地域は、海の幸、山の幸ともに食材の宝庫だ。水なすの他にも玉ネギ、キャベツ、紅ずいき、春菊、さといも、ふき、みつば、枝豆など、泉州やその周辺が特産となっている野菜は多く、JA大阪泉州農産物直売所「こーたり〜な」などで購入できる。日本有数の漁場であり、泉州沖で水揚げされる海産物では、最も有名なものが新鮮なマダコをゆでた「泉だこ」、その他、餌が豊富でよく肥えており、かつては江戸前に負けず劣らず有名だったという穴子や泉州のだんじり祭りに欠かせないワタリガニ、当地ではガッチョと呼ばれるネズミゴチなどがあり、今も漁港に隣接した青空市場は多くの来客で賑わっている。