山形県

スルメイカ

プツンと跳ねるような弾力とほのかに広がる旨み。 生でよし、煮てよし、焼いてよしの万能食材

出羽三山の土壌より沁み出た
ミネラル豊富な地下水が流れ込む
庄内浜沖は恰好の漁場

五月雨をあつめて早し最上川――不世出の俳諧師・松尾芭蕉が詠んだもっとも有名な句のひとつである。ここに謳われた日本三大急流のひとつ、最上川を有する山形県では、日本海に面するエリアを「庄内」と呼ぶ。この一帯が江戸時代から徳川四天王の筆頭、酒井家を藩主とする14万石の庄内藩として栄えたのがその由来だ。当時は内陸の米や紅花を舟で河口まで運び、その後、北前船を使って東廻り航路、西廻り航路で上方や江戸へ輸送していた。そこで発展したのが最上川河口に位置する酒田港である。

当時、舟運で栄えた酒田市では豪商が軒を連ねていた。しかし、明治期に入って鉄道が整備されると舟運は衰退。酒田港は外に開かれた港として、1951年には重要港湾に指定された。そんな酒田港がある庄内浜沖は寒流と暖流がぶつかる海域にある。最上川を中心とする河川から流れ込む水質も素晴らしい。山形は山岳信仰で知られる出羽三山(羽黒山、月山、湯殿山)や鳥海山をはじめ山々に囲まれているが、これらの山に降り注いだ雨や降り積もった雪がミネラルをたっぷり含んで海に流れだし、良質なプランクトンを育むのだ。美味しいエサは、密度の濃い旨みの魚を育てる。これが、庄内浜沖で獲れる魚は旨いと言われる所以である。

メタリックな輝きを放ち、
ひと雨ごとに大きく育つ

今が旬のスルメイカの水揚げを見ようと酒田港を訪ねた。到着時間は朝の4時40分。色とりどりの大漁旗を掲げたイカ釣り漁船が数艘、停泊しているものの、辺りに人影はない。一抹の不安を覚えたのも束の間、JFやまがたの佐藤剛さんがニコニコしながら現れた。「もうすぐ、始まりますよ」の言葉通り、どこからともなく現れたJFの職員さんたちがきびきびと簡易型のベルトコンベアやパレットを並べてゆく。にわかに活気づく漁港。時計の針がかっきり5時を指すと、漁船内部から次々に発泡スチロールのケースが運び出された。ケースを50箱積み上げたパレットは、すぐさまフォークリフトで屋根のある場所に移され、手慣れた様子の佐藤さんがひと山ごとに15、20、25、30、40、バラと書かれた紙を貼っていく。これはケースの中に何匹のスルメイカが入っているかを意味する。当然、数が小さいほどサイズは大きい。バラは規定の大きさに満たないスルメイカを並べずにバラで入れた状態を意味する。

ケースのひとつを開けてもらうと、メタリックな輝きを放つスルメイカが整然と並んでいた。ちなみに海中にいる時のスルメイカは身の色が透明で、水揚げされると麦わら色から茶色になり、その後は白っぽくなるので、簡単に鮮度を判断できる。「今年のスルメイカは水揚げ量が多いんですよ。昨年はこの6割程度でしたからね。ただ、今年は雨が降らず、時化もなかったので身自体は少し細いようです。なにせイカは、ひと雨ごとに大きくなると言われてますから」と佐藤さん。プランクトンを発生させる雨は、農家だけでなく漁師にとっても“恵みの雨”なのだ。

この日の朝、酒田港にスルメイカをおろした漁船は全部で20艙。そのほとんどが青森や北海道からスルメイカを追って南下してきた船だ。スルメイカは日本で最も多く獲れるイカで、周辺海域を南から北へ回遊しており、春から晩秋にかけて全国各地で水揚げされる。そのため、各漁船は他府県の漁港でも水揚げできるよう複数の許可証を船体に貼りつけている。7時半から始まったセリを見学し、漁港近くの食堂に立ち寄った。獲れたてのスルメイカは表面に張りがあり、噛み切るとプツンと跳ねるような弾力がある。ねっとりした食感のあと、ほのかに広がる旨みも嬉しい。良質なたんぱく質と、コレステロールを低下させる作用を持つタウリンを多く含むスルメイカ。刺身もいいが、煮てよし、焼いてよし、揚げてもよしの万能食材だ。

山形県の
地産地消事情

豊富な海の幸、山の幸、里の幸。
日本酒やワインの文化も堪能できる

ひとつの都府県のみを流れる河川としては国内最長の最上川や出羽三山、蔵王連峰など美しい景観を有する山形。全市町村に沸きだす温泉や日本三大砂丘のひとつ庄内砂丘にも恵まれ、海の幸、山の幸、里の幸を楽しむことができる。佐藤錦をはじめとするさくらんぼやだだちゃ豆はとみに有名だが、その他の名物も多く、アユ、キス(写真)、初夏に出回る月山筍(ネマガリダケ)、米沢牛、岩ガキ、山形県農業総合研究センターが10年の月日をかけて育成した食味のよい米「つや姫」などがある。地酒も忘れてはならない。庄内地域だけで初孫をはじめとする18の酒蔵があり、個性的な地酒を堪能することができる。ブドウ栽培においても山梨県、長野県につぐ全国第三位の生産量を誇り、大正時代からワインの醸造を行っていた上山市のタケダワイナリーは国内老舗ワイナリーのひとつである。