滋賀県

高島いちじく

美しいルビー色の花を食す不思議な果物  安曇川の清らかな水で大きく実れり

水はけのよい土壌に鮮烈な安曇川の水。
露地栽培由来の糖度の高さと
華やかな香りの「高島いちじく」

琵琶湖の北西に位置する滋賀県高島市は、比良山地や野坂山地などの森林が陸地面積の72%を占める自然豊かな土地。晩秋から冬にかけては日本海側気候になることから、高島時雨(たかしましぐれ)と呼ばれる霧のような細かい雨がたびたび降る。それを受け「弁当忘れても傘忘れるな」が合言葉になっているほどだ。この時雨が森林に注ぎ込んで伏流水となるため、町の随所に美しい湧水があり、市内を流れる安曇川や石田川は清らかな流れとなる。その流域の扇状地や三角州は、古くから米作りが盛んな地でもある。これらの米は「近江米」と呼ばれ、関西圏の人々に重宝されてきた。そんな地で手作業によって育まれた旬の銘品がある。ミネラリーな安曇川の水で大きく育った「高島いちじく」だ。

早朝、いちじく農家の足立清勝さんと共に畑を訪ねた。昨年デビューした銘柄米「みずかがみ」の田んぼの隣にその畑はあった。水はけのよい土壌に安曇川の水をひいた畑は全部で12畝。手間はかかるが、実の色付きがよくなる露地栽培をあえて採用。さらに色付きをよくするため、畑一帯に太陽光を反射するシルバーシートが張られている。その合間を小さな手押し車でまわり、ひとつひとつを手でもいで回るのだ。いちじくは驚くほど繊細で傷つきやすい。よって、収穫したいちじく同士がぶつからぬよう、ケースに収める際も細心の注意を払う必要がある。また、収穫が少しでも遅れると割れが入り過ぎてしまう。出荷できる「高島いちじく」の割れは2センチまで。果皮の色も厳しく取りきめられており、果皮良好でも過熟果は出荷できない。そこで、8月20日頃から10月末にかけての収穫期は、毎朝暗いうちから畑に出るという。

足立さんにお願いして、いちじくをもがせてもらった。暗赤色に熟した実を傷をつけないよう手袋をはめ、お尻の部分を支えるように持つ。軸を上に向けるとぷつんと小気味いい音と共にいちじくが木から離れた。もいだばかりの実はずしりと重く、先から乳白色の樹液がじわりと滲みでてくる。「いちじくは非常に勢力の強い木で、切った側から樹液が出てくるんです。この液にはたんぱく質分解酵素が含まれているので、手についたままほっておくとかゆくなりますよ」と足立さん。
足立さんがこの畑をはじめたのは5年前。その頃は親指ほどの太さだったという苗が、今ではポットぐらいの太さになって、大粒の実を幾つも実らせている。ものすごい生命力だ。

手に取ったいちじくの甘い香りに誘われて、皮をむいてかぶりついた。白い果肉で覆われた中にキラリと光るルビー色の粒が現れる。花を咲かせずに結実するようにみえるいちじくは「無花果」と書くが、この粒々こそが花なのだ。大ぶりの「高島いちじく」は香り華やかでねっとりと甘く、それでいて清らかな後味。かつ独特のぷちぷちした食感が楽しい。畑は青いネットで覆われているのだが、これはハクビシンやアライグマ対策だという。この凝縮した甘み、危険をおかしてでも食べたいと思う小動物たちの気持ちが分かるような気がした。

「高島のいちじくは、露地栽培なので色づきもよく、糖度も高い。通常の糖度で14〜15度とメロン並み。完熟すれば17度ぐらいになります」とは高島農業農村振興事務所 農業普及課の技師・山下紘輝さん。甘い「高島いちじく」だが、その手入れは苛酷。冬場の積雪量が多いこの地では、収穫が終わると枝をはらい、木が凍結しないよういちじくの樹幹に巻きつける必要がある。いちじくはアラビア南部原産の果実。−5度を切ると、途端にダメージを受けてしまうからだ。春になれば藁を取り除き、肥料を与え、必要な枝の剪定に入る。収穫同様、地道な作業を厭わない実直な足立さんだからこそ、繊細ないちじくを扱えるのだろう。畑を取材させて頂いた後、足立さんのお宅で奥さまの菊江さんお手製のいちじくのコンポートを頂いた。じんわり沁み入る優しい甘さが口中に広がる。この甘みと同じように、「高島いちじく」の可能性もますます広がっていくことだろう。

滋賀県の
地産地消事情

滋賀県に降り注いだ雨は400以上の川にしみだし、
やがて琵琶湖に注ぎ込む。

そんな豊かな水源を持つことから、不老泉をはじめ本格志向の良質な酒造りをすすめる小規模酒蔵が多く、その数は34社で灘の27社や伏見の25社を上回る。ホンモロコやセタシジミ、琵琶マスなど琵琶湖固有種が食べられるのも滋賀ならでは。鮎やワカサギなども豊富で、独特の食文化が育まれた。忘れてならないのは、日本三大和牛の呼び声高い近江牛。豊かな風味としっかりした歯ごたえの近江しゃもも最近、県外から注目を集めている食材のひとつだ。古くから栽培されている甘い下田ナスや、室町時代から作り続けられている日野菜、秦荘のやまいもなど伝統野菜も旨い。「近江米」と呼ばれる米や大豆など穀物も豊富だ。特に大豆は環境や健康に配慮して栽培され、『環境こだわり農産物』として認証を受けた品種も生産されている。