広島県

牡蠣

海と山の栄養で育まれる「牡蠣」  濃厚でクリーミーな味わいが特徴。

穏やかな瀬戸内の海をゆりかごに
人の手を何度も介して大きく成長。
栄養豊富な冬の味覚・広島の牡蠣。

世界文化遺産であり日本三景のひとつ「安芸の宮島」や、平和への願いを象徴する原爆ドームで知られる広島県。温暖な気候に恵まれ、穏やかな瀬戸内にひとつ、またひとつと島々が浮かぶ様が美しい“多島美”も魅力だ。広島県といえば「牡蠣」の一大名産地。生産量は全国一位を誇り、むき身は6割近くを広島県産が占めている。

縄文時代や弥生時代の貝塚からもわかるように、広島湾では古くから天然の牡蠣が獲れており、人々は岩や石につく牡蠣を自由に食していた。養殖がはじまったのは、室町時代後期。「天文年間、安芸国において養殖の法を発明せり」と文献に記されており、大正時代末期になるといかだを使った垂下式養殖方法が開発され、沖合漁場が可能となったことで生産量も飛躍的に増えていった。

瀬戸内の島々や岬に囲まれた広島湾は、波も潮流も穏やか。養殖いかだが安全に設置できる環境条件が整っている。また広島湾は一級河川の太田川(おおたがわ)や小瀬川(おぜがわ)ほか、弥山原始林(みせんげんしりん)から栄養分を含んだ山水が流れ込むため、牡蠣のエサとなる植物プランクトンが多く、増殖に必要な窒素やリンなどの栄養塩も豊富だ。今回は広島県大野瀬戸で養殖・販売を行う「オオノ」を訪れ、牡蠣の水揚げ風景を見せていただいた。

牡蠣の養殖は6月頃、幼生を付着させる採苗器(さいびょうき)を作る作業からはじまる。ホタテの貝殻の中央に針金が通る穴を空け、2センチ程度の短い管とホタテの貝殻を交互に通す。この採苗器を牡蠣の幼生がよく採れる「種場」に運びいかだに吊るしておくと、7〜8月の産卵期に海中で卵から孵(かえ)った幼生が、海中を浮遊しながら採苗器に付着する。2週間ほどすると、幼生が付着しているのが確認できる。まだ黒い点のような牡蠣の赤ちゃんだ。その後、沿岸にある抑制場に移動。干潮時には海水から出て、満潮時にはすべて海水に浸かる干潟で、潮の満ち引きを利用して、環境の変化に耐える生命力の強い牡蠣を作り、成長を促すという。その後は牡蠣の成長段階に合わせ、2センチから20センチ程度の長い管に替える「通し替え」が行われる。牡蠣が連なったものを「垂下連(すいかれん)」と呼び、間に入れた管が見えなくなるほど成長していく。暑い夏にはフジツボやムラサキ貝などが付着しないよう高水温を避け、3〜5メートルの針金を継ぎ足し、垂下連を深く沈めるそうだ。

収穫に備え、牡蠣はエサとなるプランクトンの多い「身入り漁場」と呼ばれる沖合の海域へいかだごと移動する。「普段は穏やかな瀬戸内も台風が近づくと荒れるので、比較的波の影響が少ない避難場所にいかだを移して牡蠣を守ります」と、工場長。種付けから1年半〜2年後、いよいよ水揚げだ。まず10メートル近い垂下連をクレーンで吊り上げ、一連ずつ針金を切り、連なった牡蠣を下のかごに落としていく。途中、引っかかった牡蠣などが落ちてくることもあり危険なため、慣れた作業員でも緊張を伴うという。水揚げ後はすぐに陸の作業場へ運び、海で共存するゴカイなどの虫や付着した泥を清浄海水で十分に機械洗浄。さらに、清浄海水プールで一昼夜浄化する。

最後は熟練した「打ち子」と呼ばれる人たちの手によって、殻から身をきれいに取り出していく。「カキ打ち」と呼ばれる道具を使う広島ならではの開け方で、鮮やかな手さばきで1個を5秒ほどでむき身にする。

広島県産の牡蠣は、殻は小さめでも身はぷっくりと大きく、肉厚で濃厚かつクリーミーな味わいが特徴だ。毎年10月1日の解禁から5月まで出荷されており、中でも年明け2月は旨味成分のグリコーゲンが蓄えられるため、美味しさがピークを迎えるという。むき身は鍋やフライにして、殻つきならラップをして電子レンジで加熱する蒸し牡蠣が地元では一般的だそうだ。

安定して収穫できる養殖といえど、自然環境を見極めながら、何度も何度も人が手を掛けて大切に育てる牡蠣。その苦労を思うと、美味しさもひとしおだ。

広島県の
地産地消事情

温暖で少雨の気候が育む柑橘類。
「広島レモン」は生産量日本一。

温暖で雨が少ない広島県は、柑橘類の宝庫。とりわけ牡蠣と相性のいいレモンは生産量日本一。瀬戸内の温暖で雨の少ない気候は柑橘類の栽培に適しており、呉市、尾道市などを中心に生産が盛んだ。昭和39年にレモンの輸入自由化による打撃や、昭和51年・56年の寒波による壊滅的な被害で国産レモンの生産量は一時的に激減するも、輸入レモンの防かび剤収穫後使用が問題視され、安全、新鮮を目指す国内産の需要が見直されている。「リスボン」を主力品種に栽培しており、果汁がたっぷりで香りも高く、皮まで食べられるのが自慢だ。農作物では、独特の甘味と香りが特徴のわけぎ、縁起物として正月に欠かせないくわい、特有の地域野菜「広島菜」なども有名。水産物ではカタクチイワシ、太刀魚、穴子、「チヌ」と呼ばれる黒鯛の収穫量も多く、地産地消食材として広く親しまれている。