埼玉県

くわい

ホクホクした食感の「青くわい」  ほろ苦さも独特で、個性的な美味。

お正月の宴席を彩る、美しい姿は
人が手作業で丁寧に扱った賜物。
個性が魅力的な埼玉の青くわい。

関東平野の内陸に位置し、およそ3800㎢ある面積のうち、3分の2ほどが平地を占める埼玉県。海はないが、利根川や荒川といった一級河川もあり、県内を流れる河川面積の割合は意外なことに、全国第1位。そうした地の利を活かし、古くから農業が盛んに行われてきた。全国トップの収穫量を誇る小松菜のほか、深谷ネギなど、名の通ったブランド野菜も少なからず存在する、国内有数の野菜生産地だ。

そんな埼玉県で、全国第2位の収穫量を誇る野菜がくわい。大きく長い芽をつける姿から「芽でたい」に通じると尊ばれてきた縁起物で、正月料理には欠かせない。特に、埼玉県が生産する青くわいは関西地方でブランド野菜として扱われる高級食材で、11月末から12月初めが出荷の時季。主な産地にさいたま市がある。オモダカ科に属するくわいは水田で生育する水生植物。豊かな水の存在が質の良いくわいを育てる絶対条件で同市の高畑地区や岩槻区には綾瀬川の水利を活かした栽培が今も行われているのだ。

さいたま市で青くわいの栽培が始まったのは明治になってすぐ。一大消費地である東京に隣接する好立地と、綾瀬川流域に湿田地帯があったことなどが背景にはあったようだ。昭和初期に発生した大恐慌の時代には青くわいが農家の経営にとって重要な作物と見なされるようになり、以降、生産量も増加していく。現在の青くわい生産は、昭和30年代に始まった都市化により作付面積の増加はすでに見られないという状況。収穫量もわずかだが減少してきており、原因として青くわいの栽培が熟練を要するものであること、作業も重労働といった事情が影響していると思われる。生産を続ける農家は大切な存在なのだ。

巨大な埼玉スタジアムが間近に見られる、さいたま市高畑地区。この場所で50年以上も青くわいの栽培に携わってきたのが若谷友良さん。青くわいは「芽が命」という。「不作だった去年に比べて、今年は大きくて芽が真っ直ぐ伸びた青くわいがたくさん穫れた。やっぱり、良いものができるとうれしいですよ」。くわいの栽培が始まるのは6月。室で保存していた種芋を水田に植え付けるのだ。8月の最も暑い時期には、炎天下の中、余計な葉を除く「葉かき」を行わなければならない。それが終わってしばらくすると、今度は「走りかき」。走りと呼ばれる早生のくわいを間引いて、立派なくわいの生育を願い、収穫直前にはまた、伸びた葉と茎を刈る。こうした労働はすべて鎌などを使って行う手作業。「機械を使うのは掘るときぐらいですよ」と笑う若谷さん。その機械の導入も、わずか10年ほど前に、水田になる作物を水圧で吹き飛ばして水面に浮かせる、れんこん用の機械を応用した結果。くわいは、農業の機械化が随分と進んだ今日にあってなお、圧倒的に手間のかかる作物なのだ。水に浮いたくわいをひとつひとつ収穫し、さらに、ひとつひとつ丁寧に甘皮をむき、箱詰めしていくのも、もちろん手作業。「たった1個のくわいですが、その1個を何度も何度も、人がきちんと手をかけないと出荷できないんです」。そう語る若谷さんの顔が、どこか誇らし気に映る。

出荷直前の青くわいは、その名の通り、青みがかってツヤのある美しさ。ホクホクとした食感と、独特のほろ苦さが持ち味だ。クチナシで黄色く着色して甘煮にするおせち料理での消費が9割を占めるというが、この個性はほかではなかなか味わえないもの。もっと様々な料理に応用して食べてみたい──。

埼玉県さいたま農林振興センターで、農業支援部の担当部長を務める峯岸芳雄さんは言う。「最近では、サイズの小さい、そうですね、親指大ぐらいの青くわいを丸ごと素揚げにしてお酒のおつまみにしたりしますよ。それから、農家のお母さんたちがアイデアを出し合い、栗きんとんならぬ、くわいきんとんも作られたようで、美味しかったと聞いています」。埼玉県の冬の名産品、青くわい。若谷さんを始めとする生産者が手作業で丹誠込めて作る、その実状を知っているからこそ、青くわいを使った多彩な料理の美味しさも、ぐっと感慨深いものになる。

埼玉県の
地産地消事情

東京という一大消費地に農産物を供給。
全国有数の収穫量を誇る野菜も多数。

平坦な地形と穏やかな気候、肥沃な土壌という自然環境に恵まれた埼玉県は、野菜を始めとする農産物において、全国有数の生産地。年間で約2000億円の農業産出額がある。野菜で代表的な作物といえば小松菜。2014年のデータで1万7500トンの収穫量があり、全国第1位。国内シェアも17%を占める。葱やほうれん草、蕪などの野菜も全国第2位の収穫量があるほか、里芋や胡瓜、ブロッコリーも多く産出。また、意外なところでは小麦の生産も盛んで、産出額ベースで見ると、全国第4位の実績がある。そんな埼玉県の農産物を統括するJAグループさいたまが掲げたキャッチフレーズは「暮らしのとなりが産地です」。一大消費地の東京に隣接する生産地として、安心安全で新鮮な農産物の供給を旨としている。畜産では近年、銘柄豚として「彩の国黒豚」などがあり、黒豚特有の風味と柔らかい肉質が特徴だ。