茨城県

あんこう

ミネラル豊富な常磐沖で育った  冬の味覚を代表する、あんこう

ミネラル豊富な常磐沖で育まれた
身の引き締まった「あんこう」は、
腹に「海のフォアグラ」を持つ

水戸にある「偕楽園」は、百花に先駆けて咲く梅を愛した水戸9代藩主・徳川斉昭が造園した日本三名園(金沢の兼六園、岡山の後楽園)のひとつ。師走から4月にかけて3000株以上の梅が馥郁(ふくいく)たる香りと紅白の愛らしい花で、来訪者の目を楽しませている。そんな名園を県庁所在地に持つ茨城県は、東に太平洋、西に関東平野を有し、古くから漁業も農業も盛んに営まれていた食材の宝庫。特に冬場のあんこうは「西のふぐ、東のあんこう」と呼ばれた高級食材である。

あんこうは北の冷たい海に生息する個体ほどキュッと身がしまり、味が良くなる。なかでも茨城の海岸沿いで獲れるあんこうは、「常陸路のあんこう」と呼ばれ、珍重されてきた。その理由は味の良さ。黒潮と親潮が交差する常磐沖は、ミネラル豊富な海水を起源とする親潮が黒潮とぶつかる好漁場。加えて大陸棚が広く、北部の岩礁域に南部の砂丘域と海底の地形が変化に富んでいるという条件が揃い、魚種豊かかつ美味しい魚が獲れる。それもあって、日立の沿岸には、川尻、会瀬、河原子、久慈といった地元密着型の漁港が点在しており、身の引き締まった旨いあんこうがよく揚がるという。今回はそのひとつ、常陸線大甕(おおみか)駅からクルマで10分ほどの漁港・久慈漁港を訪ねた。

日の傾きかけた午後3時頃、漁船の影ひとつない港はやけに静かで、雲ひとつない青い空が広がっている。「ここらの船は、常磐沖を30キロほど出て底引き網漁という漁法で様々な種類の魚を取っています。冬場だと、あんこう、平目、カレイ、ヤリイカ、マダラがとれますね。あんこうは深海魚で、普段は砂場でじっとしているんですよ」とは、久慈町漁業協同組合の今橋浩幸さん。話を聞いているうちに、空と海の境界に朱が混じり始め、午後4時には漁に出ていた船が帰ってきた。15tの船の船尾に黒くて大きな扉のようなものがついているのが、ここらの船の特徴。この門は「ハラ」と言い、これで50メートルほどの長さの網を広げ、1時間から2時間ほど海の中を引くのだ。作業中の漁師さんにどのタイミングで網を引き揚げるのか尋ねると、「カンだね」とカッコいい返事が返ってきた。

船の底から直径60cmほどの桶が次々に外に運び出されてゆく。中を覗くと、魚種別に仕分けされた魚がびっしり詰まっていた。大量のヤリイカ、カレイ……桶ごとに計量した魚はキロで表示された後、鐘の合図でセリにかけられ、市場に集まった地元の魚屋や仲買人に買われてゆく。お目あてのあんこうは二尾。サイズは3キロだった。「大きいものは20キロぐらいになるので、このサイズは小ぶりですよ。だけど、獲れただけよかった。今年のあんこうは特に数が少なく、旬の今でも獲れない日がありますからね」と今橋さん。本来、あんこうは産卵を終えたばかりの夏場のみ禁漁で、9月頃から翌年の梅雨ごろまで揚がる魚。旬は肝がもっとも肥大する12月〜2月だという。

水揚げされたばかりのあんこうをまじまじと見た。ゼリー状の物質を滴らせた茶褐色の体躯に突き出た下あご。つぶれた顔にとがった歯。少しグロテスクで、全体にふるふるしている。このゼリー状の物質こそヒレや皮に含まれるコラーゲン。そのぬめりと柔らかさのため、あんこうはまな板の上で捌きにくく、吊るした状態でおろす「あんこうの吊るし切り」が有名だ。いかつい見た目だが、身には上品な旨みがあり、骨以外の部位はほとんど食べることができる。特に「海のフォアグラ」と呼ばれる肝(あん肝)は、濃厚な美味でDHAやEPA、ビタミンなどの栄養素も豊富だ。

吊るし切りにされたあんこうは、「7つ道具」と呼ばれる部位に解体される。繊細な旨みを持つ身や濃厚な味わいの肝、コラーゲンたっぷりの皮やヒレ、普通の魚では食さないエラや弾力のある水袋(胃)やヌノ(卵巣)がそれで、それぞれ異なる歯ごたえや味わいを楽しむことができる。各々の部位を単品で食すのもいいが、あんこうの魅力をすべて食べつくすなら鍋がいい。白菜や三つ葉と合わせて七つ道具すべてを煮込んだ「あんこう鍋」は、海と陸の地元食材が融合して生まれた温かな名物。この季節、試してみてはいかがだろう。

茨城県の
地産地消事情

地形に恵まれた茨城で、海・川・湖、
大地の恵みをあますところなく

太平洋の大海原と緑豊かな平野が広がる茨城は古くからしゃもの生産地。なかでも茨城北部で飼育されている奥久慈しゃもは、一般的な鶏の3倍の時間をかけて、自然のなかでストレスがたまらないよう野性的に育てられた県産品だ。肉牛の飼育も江戸時代から行われており、滑らかな舌触りの常陸牛は全国に名が知られている。また養豚にも力を入れており、ローズポークをはじめ藷E(ぶな)豚といった品種が生まれている。農作物も豊富だ。京野菜で有名なみず菜をはじめ、冬に甘くなる白菜や霞ヶ浦一帯でとれる蓮根の生産量は全国トップクラス。琵琶湖に次いで全国2番目の大きさを誇る霞ヶ浦ではワカサギやシジミがよく獲れ、久慈川や那珂川は全国有数の鮎の漁場である。