三重県

あのりふぐ

旨みや食感が堪らない  冬の味覚の代表格

安乗沖で生まれ、外海の荒波に
もまれた「あのりふぐ」は、
高たんぱく低脂肪のヘルシー食材

日本のほぼ中央に位置する三重県は、「お伊勢さん」の名で親しまれている伊勢神宮をはじめ、世界遺産の熊野古道や鈴鹿サーキットなど多数の観光名所を有する地。また、南北に180kmと長く、伊勢平野を始め高原や山脈など起伏に富んだ土地と風光明美なリアス式海岸で構成されているため、農業も漁業も盛んだ。特に伊勢海老やアワビ、牡蠣やサザエ、ふぐといった高級食材の宝庫としても知られ、神話の時代から海産物を朝廷に納めていたことから、「御食つ国(みけつくに)」とも呼ばれている。

豊富な海産物の中でも特に、十年ほど前から脚光を集めているのが「あのりふぐ」だ。あのりふぐとは、伊勢湾を含む遠州灘から熊野灘にかけての海域で漁獲される700グラム以上の天然トラフグのことで、伊勢志摩国立公園内にある的矢湾に面した阿児町安乗漁港で水揚げされる。実はこの一帯が天然トラフグの一大産地だと言うことはあまり知られていない。そこで、2003年に漁業者、漁協、観光協会が一体となって「あのりふぐ協議会」を設立。そのブランドを全国的にPRしようと「あのりふぐ」の定義を決め、商標を取得した。地元での消費も拡大するなか、2007年には県によって「三重ブランド」に認定された。

陽も落ち始めた午後2時半、安乗漁港を訪ねた。あのりふぐの漁期は10月から2月末にかけて。その漁法はマグロ漁などに用いられる「延縄(はえなわ)」で、一定間隔に釣り針がついた幹縄(みきなわ)と呼ばれる長いロープを1〜2時間ほど海に沈め、その後、引き上げる。陸は無風でも沖は寒風が吹き荒れていることもあり、その中でひとつひとつの針に餌をつける作業は並大抵のものではない。しかし、機械でロープを巻き揚げた際にトラフグがかかっているのを見ると、その苦労も吹き飛ぶのだという。もちろん、700g以下のトラフグがかかった際は再放流だ。

「もうすぐ船が帰ってきますよ」というJFの追間一郎さんが声をかけてくれた午後3時頃、漁に出ていた漁船が1艘、また1艘と漁港に帰ってきた。通常なら、漁船に設えられた生簀からふぐを取りだし、専用の容器に入れて市場にて入札という流れになるのだが、ここでは違う。「仲買人をはじめ、入札の権利を持った旅館や料理店の店主が生簀で泳ぐ“あのりふぐ”の品質を船上で見定め、その場で入札を行うんです」と追間さん。実はこの入札方法、魚に触れる機会を最小限にとどめ、魚体に傷をつけないようにするため。入札されたふぐは手早く陸にあげられ、重さを量った後、すぐさま専用の水槽にいれられる。水から引き上げられた瞬間、ぷうっと膨らむのは防御や威嚇のため、水や空気を胃に吸いこむから。胸びれのそばに大きな丸い斑紋があるトラフグが、白い腹を精一杯膨らませている様は何ともユーモラスだ。

「神宮林から流れ込む三つの河川によって、餌となる植物プランクトンや小魚が豊富な安乗沖で春先に生まれ、美味しい餌をたっぷり食べたあのりふぐは、秋になると潮の早い外洋に出ます。そこで、ぐっと身が引き締まるんですよ」と追間さん。あのりふぐを解体すると、身と身についた薄皮にあたる身皮、その外側にあるとうとうみ、真皮、細かい棘がびっしりはえた外皮の5つの部位に分けられる。それぞれ独特の上品な旨みを持っており、ぷりぷりの食感を持つとうとうみやきゅっとした歯触りの身皮など食感も楽しい。また、魚特有の生臭さが一切ないのも特徴だ。その理由は、あのりふぐが臭みのもとになる脂肪をほとんど持たないため。 そのかわり、冷涼な海のなかで旨みのもとである良質なゼラチン質、つまりコラーゲンを貯め込んでいる。高たんぱく、高コラーゲンながら、低脂肪な食材のあのりふぐ。そのブランド力は年々高まりをみせており、観光客の誘致にも一役かっている。

三重県の
地産地消事情

自然環境に恵まれた三重県は、
多くの特産品を有する「うまし国」

内湾性の伊勢湾、リアス式海岸の志摩半島沿岸、外洋性の熊野灘などを有する三重県は、全国的に名の知られた海産物を誇る。「その手は桑名の焼き蛤」という言葉があるほどのハマグリやアワビ、伊勢海老をはじめ、的矢牡蠣やあのりふぐなどがそれ。伊勢湾の堆積平野である伊勢平野ではキャベツやなばななどの野菜が作られている。栄養豊富で「畑の鰻」と称される伊勢いもは、多気町でしか栽培されていない特殊な芋だ。水田も多く、「作」や「而今(じこん)」といった日本酒も有名。鈴鹿山麓では茶、松坂・伊賀地域では細かいサシが入った高級和牛の代名詞・松坂牛や伊賀牛が。また、温暖でありながら、ミネラルを含んだ熊野灘からの潮風を受けて美味しくなる季節のみかんも充実している。