銭湯

ヘルシー探偵団

銭湯

家風呂の普及と共に減少が続いている“銭湯”。
しかし昨今、独自の活動が話題を呼び、
新しい役割を担う場として再興しようとしている。

 

銭湯

テレビドラマ「時間ですよ」の舞台になり、フォークの名曲「神田川」ではその歌詞にも登場した風呂屋=銭湯は、昭和を代表するひとつの文化だった。しかし、家風呂の普及と共に廃業する銭湯が増え、その数は減少の一途をたどっている。そんな中、いま、銭湯が再び注目されているという。そこで、さまざまな試みを行う現場を取材した。

今年5月、東京都・練馬区に、温泉の湧き出る銭湯が同区内で初めて誕生した「天然温泉 久松湯」。1956年(昭和31年)開業。2代目の経営者・風間幸雄さんが、建て替えの際に考えたアイデアが“温泉の出る銭湯”だった。
「リニューアルして、広くて新しければお客さんは増えます。でも、それは一瞬。すぐ飽きられてしまうことは自明です。これから50年やっていくことを考えたら、“温泉”しかないと思いました」

そこで、地下1500mまで掘削して温泉を掘り当てたのだという。都内に700軒ある銭湯のうち温泉付きは40軒程度。希少価値はあるが、風間さんのアイデアはそこに留まらなかった。
「銭湯であって銭湯らしからぬ建物をつくりたい、という夢が昔からありました。そこで、銭湯をやったことのない『プラネットワークス』という会社に設計を頼むことにしました。桶と椅子は黒で統一。さらに風呂場の壁面をスクリーンとして使い、さまざまな映像を流すようにしました。毎日同じ壁画ばかり見ていると飽きてしまうでしょ。ただ、外観も現代的で、のれんもかけていないので、駅前の交番で、久松湯の場所を聞いたお客さんが、通り過ぎてしまうということもありました(笑)」

コンセプトは“雑木林の中の公衆浴場”。確かに、浴場内のどこにいても緑が感じられる内装だ。そして、茶褐色のお湯を湛えた露天風呂は、もちろん温泉。リニューアルオープンから約半年、お客さんの反響はどうなのだろうか。
「お客さんは、すごく増えました。平日で2〜3倍。土日になると、4倍くらいでしょうか。年齢層も0歳児からお年寄りまで幅広くなって。若い方もいますし、カップルも来ますよ。これからの銭湯は客が選ぶ時代。自転車やバス、電車を使って来る人もいる。家に風呂がある時代に銭湯に行くということは、そこに何かを求めているわけですよね。毎日来てくれる近所の方は、温泉に通うことで体調がよくなった、ということも言ってくれる。これからも認知度を高めて、お客さんをどんどん増やしていきたいですね」

久松湯がこれからの銭湯だとしたら、昔ながらの銭湯として再認識されているのが、京都の長者湯だ。脱衣所には金閣寺のタイル絵。庭には雪見灯篭。さすが京都の老舗銭湯という貫禄がある。そしていまでも、地下水を吸い上げて薪で風呂を焚く。「薪で焚くと、お湯がまったりとしていて体にまとわりつく感じ。芯から体が温まります」というのはご主人の間嶋正明さん。昔ながらの銭湯というと、地元の人同士のふれあいがあり、町の社交場のような側面があったが、現在はどうなのだろうか。

「“京おんなの長風呂”という言葉があります。脱衣場で1時間喋って、洗い場とお風呂で1時間喋って、また脱衣場で1時間喋る。そこまでではないにしろ、いまもここでは、知らない人同士の会話は自然に生まれています。先日も若いお母さんが小さい子どもを連れてきたら、まわりのおばあちゃんたちが“わたしらが子どもを見ているからあなたは体を洗いなさい”と。お母さん、びっくりしていましたけど、とても喜んでいました。そういった、若い人には新鮮にも感じられるコミュニケーションが、まだここにはあります。これからもそんな風に、心が癒されるふれあいの場として、あり続けていきたいです。ただ、お客さんの大半はお年寄りになってしまっているので、若い人にもっと来てほしいですね」

また、東日本大震災以降、地域のつながりの重要性が説かれるようになった。その中で銭湯の役割が注目されるようにもなってきている。東京の銭湯でもそうした、地域の人を繋ぐ場としての取り組みがはじまっている。高円寺にある小杉湯の平松茂さんに話を聞いた。
「うちでは、営業時間外の銭湯を使ってさまざまなことをやっています。例えば、防災ワークショップ。これは地元の若い人が中心になって、何かあった場合にどうするかなどを話し合い、防災の意識を高めようというものです。また、地元のコーラスグループによるライブなども。さらに昼間ですが、“クラブ小杉湯”と題したDJイベントなども行っています。ほかにも、杉並江戸落語研究会による“テルマエ寄席”や、来月にははじめて、演劇公演も4日間行います。ピラティスやヨガの教室も定期的にやっています。私は、地元の人々の健康増進を考えるのが銭湯の役割だと思っているんです。こうした活動を通して、人々が行き交って、交流して、健康になって、その結果として銭湯という存在を再認識してお客さんとしてやってきてくれる……さまざまな活動を通して、いまはそういういい循環が生まれ、若いお客さんも多くなってきました」

小杉湯の脱衣所の一部は「銭湯ギャラリー」になっていて、1ヵ月間無料でアーティストに貸し出しもしている。ちなみにこちらは、3年先まで予約が埋まっているという。81年が経過した古き佳き建物と、地元の若者を中心とした新しい文化の融合。これこそ銭湯生き残りの新しいモデルではないだろうか。

最後に、東京都公衆浴場業生活衛生同業組合の上地丈一さんに、銭湯の現状について語っていただいた。 「いま銭湯は、地域によりますが、外国人のお客さんが増えてきています。日本の文化を知っていただく場としての役割も担っているというわけです。ただ、入り口で靴を脱がないで入ってしまうような方もいますので、英語のポスターをつくってマナーなども伝えています。2020年の東京オリンピックに向けて外国人観光客は増えていくと思いますので、今後ホームページの多国語対応も行う予定です。また、千代田区・港区・目黒区では、市民ランナーが増えていますので、ランナー専用のロッカーを貸し出すなど、ランナーズステーション対応にも力を入れている銭湯があります。また、これからの銭湯は、お年寄りの心と身体の健康増進にも役立っていかなければなりません。一人暮らしのお年寄りが引きこもらないで、歩いて銭湯に行き、そこで人と知り合い、会話をし、心身を健やかに保つ。そうした役割も銭湯は担っていくべきだと思います」

温泉からコミュニティ作りの場として、またお年寄りの健康増進の場として……銭湯には新しい役割ができてきているようだ。減り続けている銭湯だが、大いなる可能性もまた、そこには満ちている。昔行ったことがない人なら久々に、若い方ならはじめて、そののれんをくぐったなら、また新しい体験がはじまるかもしれない。

長者湯

東京都公衆浴場業生活衛生同業組合

http://www.1010.or.jp/index.php

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2014.10.20 UP