空豆と卵のトロトロ

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トップシェフのヘルシーレシピ

空豆と卵のトロトロ

1人分 193kcal 食塩相当量 1.44g

日本料理、中国料理、フランス料理、イタリア料理。
それぞれのシェフが、家庭でできるプロの味を紹介します。
今回は、小山裕久シェフによる日本人に馴染の家庭のおかずです。

“複合調味料”で卵を煮る

日本料理で大切なのは「出来るだけ単純に作る」ことです。美味しい日本料理というのは、野菜や魚など素材の持ち味を最大限引き出すことにあり、調味料も最低限に留めます。食材の力だけに頼らず、しかし鮮度を重視しながら料理することに心を砕きます。フランス料理を油絵に例えるとしたら、日本料理は墨絵。紙の白さを使い、墨で輪郭をかたどり濃淡を付けることで、山の緑や空や海の青さ、新雪の白さを表現する。言い換えるなら、素材の美味しさを上回るほどのソースを重ねるのがフランス料理。それはそれで美味しいけれど、複雑に味を何層も重ねることで、素材本来の美味しさは薄れてしまいます。その点、日本料理は素材の声に耳を傾け、持ち味をどう引き出すか。この考え方は墨絵そのものといえるでしょう。

今回の料理「空豆と卵のトロトロ」は、昔から日本人が家庭で食べてきたおかずです。まず高野豆腐を湯戻ししてから水気をしぼり、適当な大きさに切り分けてから出汁で炊きます。高野豆腐に火が通ったところに空豆を皮ごと入れて、柔らかく煮えたところに卵を落とします。この料理は出汁に高野豆腐からの旨みが出て、さらに空豆の味わいが足されたところに卵を加えるのがポイント。最初から高野豆腐、空豆、卵の3素材を入れたからといって、同じ美味しさになるかといったらそうはいきません。

出汁にみりん、薄口しょうゆ、砂糖、塩を加えた直後は、ウィスキーでいえば水割りをステア(軽くかき混ぜる)したところ。ウィスキーは水の成分と混ざりきっていないところに美味しさを感じますが、料理の場合は違います。出汁と調味料とが完全に混ざりあってひとつの液体になり、そこに高野豆腐や空豆の持ち味が加わった“複合調味料”で卵を煮る料理なのです。今回の素材の中で、一番味がないのが「卵」です。卵は食感や歯触りはあっても、味はしません。かといって、高野豆腐と空豆だけでは物足りません。しっとりと仕上げた高野豆腐の表面に、卵の黄身がとろりとしたのをまぶしながら食べる。そうした食べ方も含めて、ひとつの料理が完成するのです。

高野豆腐は昔からの伝統食であり、植物性たんぱく質や食物繊維、カルシウムなどが含まれる栄養豊富な食材。空豆はたんぱく質、ビタミンB群が多く含まれ、とりわけ薄皮は食物繊維が豊富なので、一緒に食べることをおすすめします。空豆は旬の素材ですし、食べ方としても一番美味しいと思います。日本人に馴染のある家庭のおかずとして、食べ継いでいきたいものです。

材料(2人分)

高野豆腐
1個半
空豆(さやから出した状態)
10粒
2個
一・五番出汁
500cc
みりん
大さじ1/2
薄口しょうゆ
大さじ1/2
砂糖
15g
1g

*一・五番出汁の取り方

  1. (1) 昆布はかたく絞ったふきんで表面の汚れをさっと拭う。
  2. (2) 鍋に水をはり、強火にかける。指を入れてふっと温かい程度になったら昆布を入れる。鍋底から泡が離れて浮かび上がる70℃になったらかつお節も加える。
  3. (3) 沸き立たないくらいの火加減に落とし、そのまま3分間煮出す。
  4. (4) 火を止めて、かつお節が自然に沈むまでおく。おおよそかつお節が沈んだら、ペーパータオルを敷いて静かにこす。出汁が自然に流れ落ちるところでやめる。出汁を引いてから2日間くらいは冷蔵庫で保存できる。
  1. 高野豆腐は水で戻してから、絞って水気を切り、十字に切り込みを入れて四等分にする。

  2. 空豆の中央に包丁で小さく切れ込みを入れる。

    空豆はさやから出して、薄皮に小さく切り込みを入れる。親指の爪を立ててもいい。煮汁が入って美味しくなる。

  3. 鍋に一・五番出汁を入れて火にかけ、(1)の高野豆腐を入れる。

  4. みりんを加え沸騰させ、アルコールを飛ばし、薄口しょうゆ、砂糖、塩を加える。

  5. ひと煮立ちしたところに空豆を加える。

    中火で空豆が柔らかくなるまで炊く。薄皮の色がきれいな緑色に仕上がらなくても、美味しさには影響しないので大丈夫。

  6. 空豆がやわらかく炊き上がったら、鍋を傾け、出汁が溜まったところに割った卵を入れる。

    鍋を傾けて、出汁が溜まったところに卵を落として火を入れる。ひとつの鍋に調和した複合調味料で一体感のある味わいに。

余った煮汁は、丼ぶりやうどんにも

「出汁」と書くように、「素材から出た汁」は何でも「出汁」になります。煮物は必ずしも出汁を引かなければ美味しくならない、ということはありません。たとえばぶり大根のように、素材から旨味や滋味がたっぷり出てくるものは水で炊き、高野豆腐やたけのこのように出汁をたっぷり含むものは、一・五番出汁で炊きます。余った煮汁は、一度こしてからしょうゆやみりんを足すと、丼ぶりものやうどんにも使え、無駄なく活用できます。

出来立ての熱々もいいけれど、この料理は冷めるとまたひと味違った風味が楽しめますし、ひと晩経ってからでも美味しく味わえます。少し多めに炊いておいて、まずは出来立てを食べ、残りはお弁当のおかずにしてもいいでしょう。卵は半熟にしましたが、硬さはお好みで。空豆は皮をむくと上品な料理屋風に仕上がりますが、レシピにあるように皮に切り込みを入れてじっくり炊くと皮のまま美味しく味わえます。

小山裕久 HIROHISA KOYAMA

1949年、徳島県生まれ。料亭『青柳』店主。日本料理の技と精神を伝えるべく後進の育成、海外での日本料理普及に力を注いでいる。 2004年春には日本料理人としてはじめてフランス共和国農事功労章シュバリエ受章、同じく2010年冬には同共和国農事功労章オフィシエを受章。著書に『味の風』(柴田書店)、『小山裕久の日本料理で晩ごはん』『続小山裕久の日本料理で晩ごはん』(朝日新聞社)『古今料理集』(アシェット婦人画報社)『鯛の本』(淡交社)等がある。

青柳

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